【SYNCHRONICITY 麻生潤 × GREENROOM FESTIVAL釜萢直起】フェスの進化とフェス文化の定着。

音楽の流行は、日本では20年周期でリバイバルするという説がある。20年の間には多様な音楽やアートが生まれ、数多くのアーティストたちがシーンに現れてきた。音楽やアートを核にするフェスシーンにおいても栄枯盛衰がつきまとう。2025年、ともに20年を迎える〈SYNCHRONICITY〉と〈GREENROOM〉。インディペンデントなスタンスのまま、変わらぬメッセージを掲げ、日本のフェスシーンを築いてきたふたつのフェスのオーガナイザー対談。

文 = 菊地 崇 text = Takashi Kikuchi 写真 = 須古 恵 photo = Meg Suko


–––– 横浜の<グリーンルーム>と渋谷の<シンクロニシティ>。今では都市型フェスを代表する存在となったふたつのフェスが、そろって今年20周年を迎えます。しかもふたつとも、イベンターなどの「プロフェッショナル」がオーガナイズするのではなく、インディペンデントでスタートしたという共通項もあります。まずは20年前のスタート時のことを聞かせてください。

釜萢 横浜の大桟橋でのスタートでした。2005年の2月。どうして2月の開催にしたのかって、今は思います。

麻生 一番寒い時期じゃないですか。

釜萢 トミー・ゲレロとかTHE SLIPとか。サーフィンが好きなので、そのカルチャーを伝えたいっていうのが根っこにあって。ただフェスをやりたいっていう思いはなかったですね。フェスというよりも大きなパーティーっていうか。自分がフェスをやれるって思っていませんでしたから。

麻生 その感覚は僕も同じです。僕はもともとバンドマンで、最初はバンドでライブイベントを企画していました。音楽はもちろん、クリエイティブなもの全般が好きで、映像とかデコレーションとか、いろな人を集めてクリエイターのチームを作って。そこからちょっと経って<シンクロニシティ>を開催したんです。オルタナティブな音楽や音楽とリンクする最先端のカルチャーを伝えたいっていう思いで。そのコンセプトは今も変わっていないんですけど、できることがイベントだったし、イベントなら発信しやすいだろうって。最初は思いの丈を書いた手書きの企画書を持って会場に行って。2005年11月の初開催は代官山のUNITだったんですけど、よくやらせてくれたなって思います(笑)。

–––– 初開催の<シンクロニシティ>は、どんなラインナップだったのですか。

麻生 UNIT、UNICE、SALOONの3つを使ってのオールナイトだったんですけど、犬式やサヨコオトナラなどバンドは5組くらいとHIKARUくんとかKENTARO IWAKIくんなどのDJ。クラブカルチャーとライブカルチャーのクロスオーバーが起きはじめている頃で、そのエッジーで一番かっこいいと思うところを表現したかったんです。

–––– <シンクロニシティ>は渋谷で開催するようになったのは何年だったのですか。

麻生 代官山からスタートして、今のエリアでやるようになったのは2008年からですね。

–––– <グリーンルーム>はやはり横浜での開催にこだわっていた?

釜萢 海の自然環境を守りたいっていうことがテーマなので、やっぱり海の近くでやりたくて、会場を探しているときに、大桟橋という建物が持っているパワーというか、場所から発せられるものにやられちゃったんです。やるんだったらここでやりたいな、ここしかないなって。床などが木材で、デッキが続いていて、海に張り出している。フェスはおろか音楽イベントについても、まだ右も左もわからない自分にとって、かなりのインパクトでした。

麻生 大桟橋時代の<グリーンルーム>にも何度か行きましたよ。会場が揺れていた記憶があります。

釜萢 あの揺れはやばかったです。会場が軋んで、ステージで満足に演奏できない状態になったときもありましたから。

–––– 初開催から5年くらい経過して、2010年代に入ったあたりからふたつとも回数を重ねるごとに大きくなっていきました。

麻生 渋谷では最初O-EASTのみだったんですけど、2009年からduo MUSIC EXCHANGEも使うようになりました。完売するごとに会場を加えていった感じですね。徐々に会場が増え、1日だったのが2日になり。当初はいくつものライブハウスを使うという発想がなかったんですよね。気づいたらサーキットって言葉が生まれてそう呼ばれるようになってしまいました。やってきたことが勝手にジャンルみたいな名前がついた感じだから、今も違和感を感じますよね(笑)。

釜萢 大桟橋ホールから赤レンガに移ったのが2010年でした。ステージの数ももちろん増えて。

–––– <シンクロニシティ>は2011年に横浜で開催しましたね。

麻生 単純におもしろいことができるかなって思ったんです。使い方がおもしろくて、横浜ベイホール、ベイサイド横浜、レストランやオープン・テラスなどを使って、今の刺激的なカルチャーをいろんなスタイルで提示ができるんじゃないかって。振り返ると、この年がもっとも苦労したし大変でしたね。コロナ禍の数年よりもきつかったかもしれない。

–––– それはやはり東日本大震災の直後の開催だったから?

麻生 そうですね、5月だったからギリギリ開催できたって感じで。初の横浜だったうえに、それまでで一番大きな会場だったけどチケットはさっぱり売れない。さらにフェスを開催する以前に、イベントで電気を使っていいのか?という声さえあったくらいでした。前売りは泣きたくなるほど売れていなかったのに、当日入りきれないほどのお客さんが来てくれました。

–––– それだけ「人に会いたい」という気持ちが強かったのかもしれないですね。人に会うこともフェスの大きな魅力だと思っています。<グリーンルーム>も2011年は5月に開催しています。奇しくも311(スリーイレブン)がラインナップされていました。

釜萢 311をはじめ海外のアーティストが軒並みキャンセルになってしまって。急遽、ブッキングをし直して。うちも同じように当日券がかなり出て、確かソールドアウトになったと記憶しています。

–––– 2011年の東日本大震災、そして2020年からのコロナ禍。大きな苦難の山がいくつもあったと思うのですけど、それを乗り越えて継続させてきたモチベーションはなんだと思いますか。

釜萢 次のことをいつも考えていますね。今だったら<グリーンルーム>が終わったら7月に稲毛で<オーシャンピープルズ>があって11月には<ローカルグリーン>がある。ずっとフェス作りをしている(笑)。毎年やっていたら20年経っていたという感じです。

麻生 最前線で最高峰のオルタナティブな音楽を伝えたい、今のおもしろいカルチャーを伝えたいってことですかね。自分たちが伝えるべきものはなんだろうっていつも頭の中にあります。ただ、僕は回数とか年数は普段意識していないので、20周年は意識するように言い聞かせてきました(笑)。

–––– この20年で、フェスや音楽シーンにどんな変化を感じていますか。

麻生 音楽のトレンドはけっこう変わってきてて、オルタナティブなものがより世の中により受け入れられるようになってきたなって感じます。例えばSuchmosも、KING GNUも、Vaundyも、羊文学も、20年前ならオルタナティブやインディという括りでなかなか世に出ていけなかったと思うんです。それが広くメジャーとして、日本だけではなく海外のファンも獲得している。その時代の変化とともに<シンクロニシティ>もやりやすくなってるなって思います。大トリはずっと変わらずに渋さ知らズオーケストラです(笑)。

釜萢 お客さんのことを言えば、前は圧倒的に男性が多かったんですけど、女性も増えてきて、今では半々になっていることですね。新しいお客さんっていうか若い世代は常に入ってきています。ずっと参加してくれているお客さんもいるけれど、お客さんは常に変わっていくものですよね。そのために自分たちがなにをフェスのなかで表現していくのか。メッセージなど変わらないものを守りつつ、いかに新しいものを提案できるのか。

麻生 お客さんの層ってラインナップにも影響されますよね。

釜萢 若くて人気もオリジナリティもある若いバンドがどんどん出てきているから。そのバンドのファンは、やっぱり若い世代になる。<グリーンルーム>に限らず、フェスのすそ野は広がっていると感じています。

–––– どの世代のお客さんが多いのですか。

麻生 幅広いんですけど平均にすると20代中盤から後半ですね。世代の移り変わりはありますが、いわゆる客層は変わっていないと感じてて。<シンクロニシティ>は本当にコアで音楽好きの人が多い。いわば音楽ファン層。だからライブが熱狂的なものになっている部分もあると思います。ならして多いのは20代中盤から後半ですけど、30代も40代も50代の人もいる。20代前半や10代後半もいる。幅広い音楽ファン層って感じです。平均年齢も時代が変わってもずっと変わっていないですね。

釜萢 年齢で言えば30代がメインですね。それは20年前と変わっていません。20年の変化で言えば、お子さんと一緒に参加する人が増えてきましたね。

–––– お互いのフェスに、どんなイメージを持っていますか。

釜萢 もっとも旬なアーティストが揃っているフェスという認識です。インストもあればエレクトロもあり、いろんなジャンルが入っている。ラインナップはいつも関心を持ってチェックしていますし、すごく気になる存在ですね。

麻生 海をテーマにしているからなのか、独特な緩さのクリエイティビティがあるなって感じていて、そこが好きで居心地がいい。絵とか写真のエリアもあり、マーケットもある。ライブだけでなく、その日は赤レンガ全体が<グリーンルーム>という心地よい雰囲気に包まれる。東京にはない緩さ。<グリーンルーム>というフェスならではの楽しさや魅力を感じますね。

–––– フェス全体から発信されるもの。それがフェスの差別化になります。開催されるフェスが多くなってきて、どうしても出演するアーティストは被ってきてしまう。アーティストを選ぶ際のポイントを教えてもらえませんか。

釜萢 出演アーティストはどうしても被っちゃいますよね。フェスに出るバンドがあればフェスに出ないバンドもある。音楽を聞いて、ライブを見て、シンプルに出てもらいたいアーティストにオファーする。ブッキングの方向性とかやり方は変わっていないと思います。ただ、なんとなくですけど20年続けてきたことで、フェス自体の知名度があがって、国内も国外もエージェントやアーティストに知ってもらえて、扉が開いているのかなって感じていますね。

麻生 <シンクロニシティ>は被っているという感覚があまりないんです。他が呼んでるからとか人気があるからとか考えていなくて、ジャンル問わず最前線で最高峰のオルタナティブっていうブッキングのコンセプトのもと、今呼ぶべきだと思った人を呼んでいて、それを貫いて広げてきたって感じです。今年は約120組で相当なボリューム感がありますが、他にはなかなか出演しないフレッシュな若手も多いし、他のフェスを見渡してみても<シンクロニシティ>のラインナップは同じようなものはないと思ってますね。

–––– 20周年という特別な年である今年は、それぞれどんなことを試みているのですか。

釜萢 今年は20周年なんで、やり残しがないように、人生をかけてブッキングしているって感じですね(笑)。はじめて金曜に前夜祭をやるんですけど、20周年記念の特別な夜になればなって思っています。

麻生 初開催のときはオールナイトだったんですよね。なので、久しぶりに土曜の夜はオールナイトもやりたいなとか思って、やることにしました(笑)。

–––– 当初は20年も続けるなんて思っていましたか?

釜萢 5年を超えたあたりで10年を意識して、10年を迎えたときに20年まで絶対やりたいって思いましたね。初開催した後に、フェスでもプロフェッショナルとしてちゃんとやっていける実力をつけたいって強く思ったんです。そこから夢中で走ってきたっていう感じですね。

麻生 僕は気づいたらって感じで、続けようとか続けられるとか全然考えていませんでした。初開催のときなんて「もうやりたくねえ!」って思って、次の年は開催しなかったくらいです(笑)。でもやっぱり目の前に伝えたいものがあるとやっちゃう。その積み重ねだったような気がします。

–––– 次に思い描いていることを教えてください。

釜萢 横浜の赤レンガでずっとやっていこうと思っています。秋の<ローカルグリーン>も去年11月開催になって、やっと見えてきたかなって手応えを感じていました。フェスは地域との関係も含めて、成立するまでに5年10年という時間を要するものなんだと改めて感じています。そして成立できたものをどう定着させていくか。

麻生 世界と日本をつなぐハブになれるようなフェス作りをしていきたいと思っています。今は特にアジアにフォーカスしています。アーティスト単位で招聘するとか派遣するとかだけじゃなくて、俯瞰して長期的な関係性や環境を築いていくこと。フェスというよりも<シンクロニシティ>という場所を生かしたプロジェクトというイメージで作っていきたいです。アジアの人が<シンクロニシティ>に集まって、交流して、そこからなにかがはじまっていく。日本のオルタナティブなカルチャーを世界中に届けられるような場所を作っていきたいって思っています。

SYNCHRONICITY’25 20th Anniversary

2005年11月に初開催。東京・代官山のUNIT、UNICE、SALOONの3会場を使ったオールナイトパーティーだった。2008年から渋谷で開催(2011年のみ横浜開催)。東京・渋谷発信のフェスとして、音楽ファンだけではなくアーティストからも支持を集めている。2025年は2日間の開催のほか、Wonder Vision(4月5日6日)、Pre-Party ‒ Bridge Asia,Inspire Future(4 月11日)、SYNCHRONICITY’25 MIDNIGHT(4月12日深夜)の3つのイベントが行われる。

開催日:4月12日(土)13日(日)

会場:Spotify O-EAST、duo MUSIC EXCHANGE、clubasia 、

SHIBUYA CLUB QUATTRO、WWW、ほか(東京都渋谷)

出演:東京スカパラダイスオーケストラ、SPECIAL OTHERS、THA BLUE HERB、渋さ知らズオーケストラ、ZAZEN BOYS、踊ってばかりの国、SOIL&"PIMP"SESSIONS、 toconoma、ほか

GREENROOM FESTIVAL 20th Anniversary

「Save The Ocean」をコンセプトにした音楽とアートのカルチャーフェスとして2005年2月に横浜の大桟橋ホールでスタート。ライブやアートの展示だけではなく、映画が上映された年もあった。2010年から赤レンガ倉庫に会場を移してから、年を重ねるごとに人気を集め、春フェスを代表する存在として認められている。入場無料のマーケットエリアも充実。今年は前夜祭として金曜夜にはじめて開催される。

開催日:5月23日(金)24日(土)25日(日)

会場:横浜赤レンガ倉庫(神奈川県横浜市)

出演:YG Marley、Kamasi Washington、Jacob Collier、Tuxedo(DJ set)、RUDIM≡NTAL、Tommy Guerrero、The Yussef Dayes Experience、Rickie-G、ほか


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