【南研子(熱帯森林保護団体)】アマゾンの森を、先住民族とともに守る。

南米ブラジルのアマゾン。その広大な熱帯雨林を守る活動を35年にわたって続けてきている。毎年のようにアマゾンに赴き、先住民族と共にジャングルで過ごした日数は2000日を超えるという。アマゾンの自然からもたらされた先住民族の伝統文化。アマゾン先住民族のアートを集めた「ART Is. Modern Primitive」が5月12日まで新宿伊勢丹で開催されている。

–––– 研子さんがアマゾンと関わるようになったのは、どういうきっかけからだったのですか。

 1989年にスティングがアマゾンの森林保護のために来日したのがきっかけ。アマゾン・カヤポ族の長老ラオーニとともに、アマゾンの森林危機を訴えるワールドツアーを行っていて、そのツアーのひとつの目的地として日本にやってきた。アメリカの友人から「日本でスタッフがいないから手伝ってくれ」と。スティングのファンでもないし、暇つぶしみたいな感覚で行ったのよ。

–––– スティングだけではなく、アマゾンの長老も来日したのですね。

 そうなの。16カ国をめぐるツアーで、アジアでは日本だけ。日本での活動が終わって、次の目的地であるオーストラリアに向かう時にラオーニと握手して。「アマゾンの森がこれからどんどんなくなっていくだろう。森を一緒に守る仲間になってくれないか」ってメッセージをもらったような気がした。そして「熱帯森林保護団体」を設立。気がついたら35年も経っちゃっていた(笑)。

–––– アマゾンにはじめて行かれたのは?

 1992年に地球サミットという国際会議が、ブラジルのリオデジャネイロで開催されたの。世界的な環境会議のはじまり。まだ日本では環境というものがまったく市民権を得ていない時代。リオでは環境保護に関するいろんな会議があったんだけど、どこか居心地が悪かったのね。白人至上主義みたいな感じがして。地球サミットが終わって、実際にアマゾンに行って。それで「現地の人と直に関わって活動する」って決めて。

–––– その後、毎年のようにアマゾンに行かれているのですよね。

 35回。トータルすると2000日以上ジャングルで暮らしている(笑)。

–––– 1回の訪問で、1カ月以上滞在する?

 最近は1カ月くらいですけど、前は3カ月くらいいたこともある。何を支援したらいいかっていうのは1日2日の滞在じゃ見えてこないでしょ。寝食を共にしないと。電気もガスも水道もないし、お風呂もトイレもない。行きはじめた頃はみんな素っ裸だしさ。「ここ、どこ?」みたいな。だけど私たちの暮らしから「一番離れたところ」で暮らしている人たちは、自殺も人殺しも、いじめも寝たきりもないんだよ。

–––– 生命力が違うということですか。

 日本のおじいちゃんと同じように年をとっているのだけど、長老たちはみんな元気。それはなせかっていうと文字がないから。文字がないっていうことは全部が口頭で伝えられる。次の世代に伝える智慧などすべてが長老にかかっているわけ。「年はいくつ?」って聞いても、「何、それ?」みたいな顔をするし。

–––– 年齢という概念がないんですね。

アマゾンに行って、なんで日本では年齢にこだわるんだろうって思うわけ。それは管理しやすいから。何歳になったら学校に行って、何歳になったら働く。何歳になったら定年になる。これって管理の問題だよね。日本の社会は作らされた社会だなって思って。でもアマゾンでは、年齢は関係なく、人間としてやれることをやる。1日の最高気温が50度で最低気温が10度。寒暖の差が40度もある過酷な環境のなかで生きている。だけどそこが、私たちが抱えている自殺やいじめといった負のものが一切ない社会だったんだよね。ここがあるのなら、まだこの地球が残るのかなって思ったわけ。頭を殴られたような感覚だったね。ある意味ではあっちがまともでこっちが狂気。だから自分を確かめにいくような気持ちもあるわけ。

–––– 一緒に多くの時間を過ごすことで、支援の仕方も変わってくるのですか。

 私は「支援」って一度も言ったことがない。向こうの意見を聞く。

–––– この35年でアマゾンもかなり変わっていますか。

 すごい勢いで。特にこの5〜6年の間にバッと変わってる。でもそれってしょうがないこと。長老たちだって携帯を持っているくらいだから。何をしちゃいけないって私たちは言えないでしょう。私たちが享受してここまできた以上は。

–––– 我々は持っているけどあなたたちは持ってはいけない、というのはおかしな話ですから。

 スマホを手にすることで失うものがあるよとは言う。必ず何かが失われていくし、本当の意味での伝統文化もだんだんなくなっていくだろうし。

–––– 道路なども開通したことで失われてしまうものがあるといいます。

 彼らの意志で失うのなら、私はしょうがないと思う。変にストッパーをかけてしまう。それって私たちのエゴでしょ。私たちだって30年前に携帯を持っていなかったし、100年前には車を持っていなかった。この100年の間で、すごい変わり方をしているわけでしょ。

–––– 研子さんの基本にある思いとは?

 思いはないです。彼らがどう思っているのかっていうことに沿っていくしかない。それを選ぶことによってこういうリスクが生まれるし、こういう失敗があるなっていうのもわかる。私たちもそうだけど、失敗しなきゃ学ばないもん。彼らが自分で考え、実行して、失敗しながら学んでいく。だから支援じゃなくて、共に考えている。私たちもアマゾンから学ぶことも多いよ。大事な何かを取りこぼしてきたこととか、忘れてきたこととか、山の如くあって。今、これを取り戻そうとしても、もう手遅れ。私たち人間は自滅する道を選んだと私は思っているから。

–––– 今はアマゾンでどんなプロジェクトをやっているのですか。

 森を守るプロジェクトと森を活用するプロジェクト。守るのが、不法侵入者によってマホガニーが伐採された跡地に苗木を植えることと、森林火災を最小限に食い止めるための消防団。活用するプロジェクトが養蜂。養蜂は環境を壊さないでできることだから。それ以外では伝統文化を守るプロジェクトとか。

–––– 5月に新宿伊勢丹で「ART Is. Modern Primitive」が開催されます。

 アマゾンからやってきたアート作品たちを販売し、再び彼らの森林を守るために還元したい。アマゾンには不思議なことがいっぱいある。ただその不思議の園も、お金がなくちゃ守れない。今、私がやりたいと思っているのは、インディアンの長老たちを日本に呼ぶこと。日本にいる自分たちとアマゾンが密接に関わっているっていうことを多くの人が知らない。それを伝えられたらなって思って。

–––– 広く伝えるための場所として伊勢丹は大きな意味を持っているように思います。

 環境に対しての意識がある人っていうのは、ある種のアンテナもあるわけだから放っておいてもいいの。そうじゃない人たちに広げていかないと何も変わらないんじゃないかな。いい循環の場のための「ART Is. Modern Primitive」。これからは、おもしろい時代に「なる」んじゃなくて「していかなくちゃいけない」からね。

ART Is. Modern Primitive - by Aya Fukushima

ブラジル先住民族のプリミティブアート×モダンインテリア、夢の共演

会期:2024年5月1日(日) 〜 5月12日(日)

会場:伊勢丹新宿店本館5階 センターパーク / ザ ステージ #5

〈 トークショー 〉 スタイリスト ふくしまアヤ × NPO法人熱帯森林保護団体(代表 南研子氏)

日時 :5月5日(日) 14時〜15時 / 5月11日(土) 14時〜15時

南 研子

みなみけんこ/NPO法人 熱帯森林保護団体(RFJ)代表。1970年女子美術大学卒業。大学卒業後、NHKテレビ『ひょっこりひょうたん島』などの制作、舞台芸術やコンサートのプロデュース業にも携わる。1989年、スティングが行ったワールドキャンペーン・ツアー「アマゾンを守ろう」に同行し、アマゾン先住民族のリーダー・ラオーニと出会ったことをきっかけに熱帯森林保護団体を設立。以降、年に数カ月アマゾンのジャングルで先住民族と共に生活しながら、様々な活動を続けている。


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