【三条楽音祭/インタビュー】10回目への思いと持続可能な無料フェスへの希望。

行政と市民が作り上げる入場無料の野外フェスとして、今年で10回目の開催を迎える三条楽音祭。数多くのフェスが今では開催されているが、入場無料で継続されているのは珍しい。地元の魅力を知ってもらいたいという想いが、継続の力になっているのだろう。三代目実行委員長の大橋賢太さんに10回目の想いを聞いた。

–––– 今年で10回目を迎える楽音祭。今回の開催に関して、特別な思いを持っているのですか。

 もともと三条市の奥に位置する下田地域(旧下田村)は過疎化が進む地域でして、三条市も活性化に力を入れたいという想いを持っていました。そこで、三条楽音祭というフェスを開くことになったんですが、そこはやはり人と人。先代の委員長から下田の地域住民の方々に協力を仰ぎ、地元の人が持つ知恵や経験、何より、この地域を良くしたいという想いに支えられ、とうとう10年目を迎えることが出来ました。少しずつイベントの認知も広がり、決して交通の便が良いとは言えないなか、会場に来てくれるお客さんや出店者さん、出演者さんの口コミのおかげで今があります。 僕自身は10周年にとらわれすぎず、これからも下田の魅力を知ってもらえるようなイベントとして「続ける」ということに重きを置いて持続可能なやり方を模索したいという気持ちが強いんですが…とはいえ、やはり10周年。特別な想いは少なからずありますね。仲間たちが作ってくれるステージやスケボーランプ、無償で手伝ってくれるカメラマンやライターのみんな、これだけ大変な準備を(ときには喧々諤々やりながら)毎年半年も付き合ってくれる実行委員会のスタッフ。日に日に感謝の念が押し寄せますし、みんなが集まるとこんなに素敵なことが出来るんだってことを特に若い世代に感じてもらいたいです。それが、ボランティアだけでイベントを創り上げる意味だと思います。 今年の出演アーティストはいつにも増して、周囲から喜ばれる声が大きく、たくさんのお客さんが来てくれるんじゃないかと期待しています。この10年の歴史と、時を経ても変わらない下田の自然の美しさ。節目となる今回の楽音祭を通じて、より多くのお客さんに下田を始め、三条市という街を楽しんでほしい。ただそれだけの想いで9月9日の開催日を迎えたいと思っています。

–––– 今回の特徴を教えてください。

 出演者は犬式、bird、TURTLE ISLAND、TUFF SESSION、SAIRU、東田トモヒロ、Phoka & 久保田リョウヘイ。みんなに共通するのはメッセージを訴える力を持っているということ。さらに地元から毎年サウンドシステムを出してくれるLIGHT-ON SUPER-DISCOもまた、マイクを持てばメッセージを込めてラバダブを披露します。ステージ前では例年に加え更に多くのメッセージをお客さんに受け取って欲しいと思っています。

 また例年力を入れているワークショップ。すべて地元のみなさんに手伝ってもらい開催しているんですが、昨年から地元企業も参加してくれるようになりました。昨年に引き続き、永塚製作所さんの廃材ミラーボール作りに加え、今年は爪切りで有名な諏訪田製作所さんが廃材で作る盆栽アートのワークショップも行います。絶対に他の地域では体験できないワークショップになるので、ぜひ多くの方に体験してもらいたいな、と思います。

 それと今年は特別に前夜祭として、9月8日(土)に三条市内、北三条駅の目の前にある「ステージえんがわ」という施設で東田トモヒロさんのライブを行います!併設するスパイス研究所では美味しいカレーも食べられるので、絶対におすすめです!(詳細はこちら

 さらにその前日9月7日(金)は楽音祭に出店するveronicaさんでTURTLE ISLANDの永山愛樹さんのライブも。開催日前に前夜祭が自然発生的に群発してるのも例年にない盛り上がりですね。

 そして、今年は地元の伝統芸能「三條太鼓」を次代に繋ぐ、三小相承会さんがイベントのオープニングアクトを務めてくれます。10周年を記念した企画がイベント前から本番まで目白押しです。

–––– 入場無料のフェスにこだわり続けている理由は?

 三条楽音祭は三条市と一緒に行うイベント。半分は公共のサービスとして音楽フェスをお届けしているという全国でもそんなに類を見ないイベントかもしれません。

 公共のサービスなんだから、老若男女、子どもが小さくてなかなかイベントに行けない人から四六時中フェス三昧の人、地元のおっちゃんまで誰でも来てほしい。来て会場付近の自然の豊かさに触れて、また来てもらいたい。

 そんな想いから、その人の置かれた状況に関わらず、一日限りのお祭りを楽しめるよう、無料フェスとして開催し続けています。

–––– 楽音祭で最も大切にしていることとは?

 老若男女がみんな楽しめる雰囲気作り、それと、地元の人から愛されるイベントとして続けていくということに重きを置いてます。三条楽音祭は下田のみなさんや先代の委員長を含め、今まで土台を作ってくれたみんなの協力無しにはあり得ないイベントです。そこに敬意を払い続けることを大切にしていますし、来場者の皆さんにも地域をリスペクトする気持ちが伝われば最高ですね。

–––– この10年を振り返って、楽音祭はどう成長してきたと思いますか。

 最初は11月開催で、雪がちらつく中、200人くらいのお客さんしか来ないところからスタートしました。 新潟には各地で精力的に活動する「越後JAH推進委員会」というコミュニティがあります。初代委員長もそのコミュニティの住人で、周りに奇跡的に集ったいろんな職人や職種のメンバーが、三条市と共に三条楽音祭を作り上げました。 二代目の委員長は三条市で定期的に行われる大型イベント「三条マルシェ」の実行委員も務めてきた人で、越後JAH推進委員会とはまた別の、マルシェで活躍していたメンバーを実行委員会に招き入れ、このイベントに新しい色を付け加えました。

 僕は1回目から携わってきましたが、委員長になってからは、イベントの名前を聞きつけ、自然と集まってきてくれたスタッフのみんなや幼馴染の協力を得て、イベントを運営しています。

 初代から現在まで、形は変わっても、初回から今まで協力してくれたみんながあって、10周年目を迎えます。

 はじめはレゲエが中心だったラインナップも、スタッフが混ざり、年を経るごとに、色とりどりの音楽を奏でるアーティストに出演してもらえるようになり、それに伴って、バラエティに富んだお客さんが足を運んでくれるようになったと思います。

 また、地域の理解も少しずつ広がり、地場産業を生業とする職人さんにも参加してもらえるようになり、地元の色が少しずつ鮮明になってきている途中だと思います。個人的には、いつか鍛冶職人が叩く金槌の音がステージの転換時に遠くからカンカンカン…と聞こえてくるような、地元ならではの雰囲気を作ってみたいですね。

 みんなの協力があって、自然と成長していく一方、変わらず、DIY精神は失わず、都市型のビッグフェスでは出せない空気を大切に、今後も一歩一歩、派手にではなく着実にイベントを作り上げていきたいと思っています。

–––– フェスはある意味では地域と作りあげていくものだと思っています。地域と関係を築くに当たって、どんなことをしていますか。

 僕らの場合は、行政とタッグを組むというところで、「ある意味」どころか「100%」地域と作り上げていく感覚です。だからといって、特別何かをしようとして背伸びしても長く続かないと思います。

 三条楽音祭の開催前後に限らず、一年を通じて、仲間の相談に乗ったり、逆に乗ってもらったり、下田に遊びに行き、地域の人と交流し、冬の間は酒を飲むことですかね(笑)。特別なことは必要ないと思います。それより、みんなとコミュニケーションを取り続けることが大事かなって思います。

–––– 会場の中浦ヒメサユリ森林公園はどんな場所ですか。

 会場は小さなキャンプ場ですがロケーションは最高です。木々に囲まれ、小川が流れる会場はいるだけで森林浴気分になれます。駐車場近くには棚田が広がっています。駐車場が小さく、イベント当日は関係者の駐車場として埋まってしまうので、臨時の無料シャトルバスでの移動だけになります。 フェス開催日は稲刈りの時期。道中、田園風景を楽しんでください。そこにはこれぞ新潟という景色が広がります。バスが徐々に進み、景色が田んぼから山の風景に変わり、細い道を抜けると…そこが会場の中浦ひめさゆり森林公園です。

 三条楽音祭開催前後は準備のため、宿泊できませんが、普段はキャンプイン可能(しかもキャンプ一張り1,000円!)で、ゆっくりした時間が流れています。晴れれば空に広がる星空は絶景で、天の川がくっきりと見えるくらい。三条楽音祭が終わった後は、是非キャンプを楽しみに来てほしい、愛すべきキャンプ場です。

–––– 開催直前になって、参加する人にどんなことを望んでいますか。

 先にも述べたとおり、会場は車で来ることが出来ません。シャトルバスで来ることになるんですが、例年、マナーを守らず、なんとか会場に入ろうとする方も少なからずいらっしゃいます。三条楽音祭開催前日から当日夜まで、会場内での宿泊は開催準備の大きな妨げになるので、絶対にやめてください。また、小さい会場なのでキャンプ道具の持ち込みはお断りしています。キャンプイス等は持ち込めますが、テント・タープの貼り出しはやめてください。

 それと、何度も言ってしまってますが、三条楽音祭は下田の地域住民の協力、中浦ヒメサユリ森林公園の管理人さんや従業員のみなさんの協力無くしては絶対に開催できないイベントです。自然や地元の人に対するリスペクトを忘れず、ゴミや吸い殻は必ず所定のゴミ箱に捨てるか、お持ち帰りください。

 そして、無料イベントだからこそお願いしたい来場者の皆さんへの出費があります。それは「西日本豪雨災害」への募金です。当日はビール売り場の近くに募金ブースを作るので、是非お気持ちをご寄付に変えて頂けると幸いです。集まった募金は災害支援を行う一般社団法人「OPEN JAPAN」様にすべてお届けいたします。

–––– 最後に楽音祭に参加することで、どんな時間を過ごして欲しいですか。

 ステージで行われるライブはもちろんですが、小さな会場のそこかしこで行われるDIY精神たっぷりのイベントを楽しんでほしいです。是非、積極的にワークショップやスケボーに参加してください。

 そしてそれらすべてを「地域を楽しみ、盛り上げるために出来ることをやりたい」という有志が作り上げているということを感じて下さい。僕らは地方で生活し、都会に比べれば遊び場は少ないかもしれません。だけど、みんなの力が集まれば、都会では出来ないこんな遊び方が出来る、ということを知ってもらいたいです。

 とにかく、今年で三条楽音祭は10周年を迎えました。初めて来る人も、何回も来ている人も楽しめる、最高のお祭りになるよう、盛り上がりましょう!

(写真=アリモトシンヤ)


三条楽音祭

開催日:9月9日(日)12時〜20時30分

会場:中浦ヒメサユリ森林公園(新潟県三条市)

出演:犬式、bird、TURTLE ISLAND、TUFF SESSION、SAIRU、東田トモヒロ、ほか

入場無料


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