地元(あきる野)から世界へ。民謡を楽しんでもらうという意志。【フレディ塚本(民謡クルセイダーズ)】

民謡に出会ったのも、その民謡とラテンダンスの融合を目指したバンドをスタートしたのも東京西部。米軍横田基地があることでアメリカの文化が根付く福生、関東山地のゲートシティでもあるあきる野という「東京」の町。自分たちの場所での暮らしや活動を発展させることで、日本の伝統を様々なスタイルで広く伝えている。

文 = 菊地 崇 text = Takashi Kikuchi/写真 = 宮寺 功 photo = Isao Miyadera


––  フレディさんが在籍する民謡クルセイダーズは、福生で結成されました。フレディさんも、多摩地区での暮らしが長いとお聞きしています。

  高校を卒業して、愛媛から出てきてからずっと多摩ですね。前は福生で、今はあきる野。たまたま就職した会社がこの界隈だったんです。もう40年近くになるんですよね。


–– 民謡というと、小さな頃から歌っている方が多いという印象です。

 就職はしたものの、東京に出てきた目的はジャズボーカリストになることだったんですよ。高校まではもちろん、東京で暮らしてからも、しばらくは民謡とは無縁でした。


–– それがどういうきっかけで民謡の世界に入るようになったのですか。

 仕事しながら、ジャズボーカルの教室に通っていたんです。講師の方とどうしても合わなくて、ジャズだけではなく、音楽さえ嫌になるようなほど追い込まれてしまったんですね。なんか悶々とした気持ちが続いていたときに、入ったお蕎麦屋さんのテレビで民謡をやってて。「わ、いいな」って思っちゃったんです。そのお蕎麦屋さんに「近くに民謡教室ってないですか」って聞いちゃって。偶然にも「裏で先週からはじめたみたいよ」って教えてくれて。そのまま教室の扉を叩いたら、明日から来てって言われて。普段は、思ってはいても行動に移すタイプではないんですよ。何も考えないでとんとんとんと行動して。


–– 何かに動かされていたのかもしれないですね。

 その教室の先生が好きにやっていいよっていうタイプだったんです。伝統芸能が持っているしきたりとか、こうじゃいけないっていうことにこだわらず、自由にやっていいんだよっていう人。コンクールで賞を獲得したいのなら、それに適した先生を紹介するから、と。民謡に入り込んでいくベースがそこでできたっていうか。


–– それが何歳の頃だったのですか。

 22歳の頃。男性で若くて民謡を歌っている人ってほとんどいないんですよね。男の子は変声期があるから辞めちゃうケースが多い。若い男性が珍しかったこともあって、いろんな人がいろんな人を紹介してくれて。君ならこの人に教えてもらったほうがいいとか。段階を踏んで、会うべき人に会っていくんだろうけど、それをピョンと飛び越えちゃって、すごい人にあてがわれるみたいな感じもあったんです。


–– いわば民謡界の期待の若手だったわけですね。

 けれどいろんな人にお会いしていくうちに、民謡界をどうするかみたいなところにも巻き込まれそうになって。民謡を自由に楽しんでもらいたいっていう気持ちが強かったので、組織からは抜けて。そんなときに民謡クルセイダーズの話が持ち上がったんです。

–– どんなきっかけで民謡クルセイダーズは結成されたのですか。

 福生で、飲み屋主催のパーティーのようなフェスのようなイベントが年に1〜2回あったんですね。自分は当時ソウル系のバンドもやっていて、田中(克海)にはそこで会ってたんです。あるとき田中が「祭囃子が聞こえてくるとワクワクする。そんな感じの音楽をやりたいんだよね」って話してきたんです。民謡もそこに取り込んでいきたいっていうことで、それなら俺も喜んでやる、と。最初は昭和歌謡がメインだったんですけど、徐々に民謡に特化するようになっていって。


–– その頃から民謡クルセイダーズという名前に?

 最初の頃は、ライブするたびに名前が変わるようなバンドだったんです。それをおもしろそうだって聞きつけて、「やりたい、やりたい」っていう人たちが集まってきて。田中が日本の古い音楽に関心を持つようになったのは、東日本大震災が大きかったと思います。海外の音楽はいっぱい吸収してきたけれど、果たして日本の文化ってどうなの? あまり知らないんじゃない? 日本の文化を見つめ直そうじゃないですけど、自分たちでも楽しんじゃえっていう感覚。民謡をいろんな人に聞いてもらいたいという自分の思いも、民クルなら可能かなって思ったんです。


–– 福生やあきる野など、地元感も民クルは強いように感じています。

 もちろん地元は好き。だけどここだけに特化するわけではなく、こことどこかがつながる感じになればいいなって思っています。こことヨーロッパ、こことコロンビア、とか。全部とつながることで地元の良さが浮き上がってくるみたいな感じになればいいなって。その意味で、福生はいろんな文化も混在しているし、あきる野には自然がある。しかもどちらも東京。自分にとっていいバランスのところなんですよ。身近にある環境でどう幸せにするかって考えるタイプなんです。その意味で、福生にしろあきる野にしろ、ここから出て他の場所で暮らす理由が見つからない。自分は走るので、近くに川があればいいし、山にも昇るので山があればいい。だからあきる野は都合がいい場所なんですね。

民謡クルセイダーズ

米軍横田基地のある街・福生でギタリスト田中克海と民謡歌手フレディ塚本を中心に2011年に活動がスタート。数回のメンバーチェンジを経ながら、2017年にファーストアルバム『Echoes of Japan』をリリースした。クンビア、ビギン、ブーガルー、カリプソなど様々なラテン系のダンスミュージックと日本民謡を融合させたオリジナルな音楽は、国内外から注目を集めている。今年の夏、1カ月近くに及ぶヨーロッパツアーを敢行。

民謡クルセイダーズは2021年11月に開催された「多摩あきがわライブフォレストフェス~森と川と焚火の音楽祭~」に出演。今年10月15日に予定されている「トーキョーマウンテン〜森と踊る」に出演。フレディさんは民謡ユニットの「こでらんに~」としても活動している。

「令和2年度第3次補正 事業再構築補助金により作成」

トーキョーマウンテン 2DAYS

美しい森と溪谷に響く歌声。山と心を震わす太鼓とビートの鼓動。緑に囲まれた野外でこその音楽ライブ。中央線で新宿から60分にある東京の大自然。ローカルマーケット、BBQ&焚き火フードといったここだけのコンテンツもラインナップした野外フェス。ワークショップだけではなく、アクティビティツアーも堪能できる。東京の山遊びフェス。

会場:多摩あきがわライブフォレスト自然人村

Day1「森と踊る」10 月15 日(土)

出演:民謡クルセイダーズ、元ちとせ、リトルテンポ、君島大空、平田まりなwith 吉井盛悟、五日市中学伝統芸能部、ほか

Day2「山びこ響く」10 月16 日(日)

出演:GOMA & Jungle Rhythm Section、Polaris、日食なつこ、青柳拓次&クリストファー・ハーディー、Afro Begue、KenKen with GIVE UP GUYS、吉井盛悟 with 平田まりな、ラセーニャス、ほか

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