電気を作る人と使う人がつながる電気のコミュニケーション。【長島遼大(みんな電力)】

毎日食べるものは「顔の見える生産者」から購入したい。そこには顔が見えることによる安心でつながれている。食べものだけではなく、電気も生産者を選びたい。地球に優しい電気を使いたい。そんなシンプルな思いがみんな電力のベーシックに存在している。

文 = 菊地 崇 text = Takashi Kikuchi
写真 = 須古 恵 photo = Meg Suko

ー みんな電力が掲げている「顔の見える電力」について、簡単に教えてください。

長島 我々は電気を仕入れている生産者さんの顔を、ウェブサイトでお見せしています。顔だけにとどまらず、発電方法だったり、どんな思いで電気を作っているのかっていうことも掲載しています。発電している方々を見える化して、お客様に選んでいただくことが「顔の見える電力」ということなんです。特徴として、個人のお客様だと自分の応援したい発電所をひとつ選ぶことができるんですね。例えば故郷にある発電所とか、福島なら復興で頑張っている発電所とか。その発電所に、毎月の電気料のなかから100円応援金として届けることができます。


ー 1歩目はどんな思いを持ってのスタートだったのですか。

長島 貧困の解消です。電気って、大きなところが作っていてそれが個々に届けられるという、一極集中の仕組みでした。電気は富を作ることができる。誰もが電気を作られて、誰もが好きな人に届けられたり買ってもらえたりしたら、富が分散されるのではないか。それがみんな電力の起点です。


ー 最初はどのくらいの発電所数だったのですか。

長島 10とか20とか、少ない数でのスタートでした。今は600ほどになっています。


ー いとうせいこうさんのようにアーティストが手がける発電所もありますね。

長島 電気を買って好きなアーティストの活動を応援する。せいこうさんとは、ひとつのパネルをファンがお金を出し合って分割しながら所有しあう。そんなアイデアも出てきています。ファンもアーティストと一緒になって電気を作られる。そんなことができたら楽しいじゃないですか。


ー かつては送電線で送られてくる大手電力会社の電気を、当たり前のように受け入れていましたから。

長島 電気って身近にあり、暮らすうえではなくてはならないものなのに、選ぶことすら意識していなかったじゃないですか。選ぶことに切り込んでいけたっていうことが我々の強みなんでしょうし、選ぶことによって想像していなかったつながりも生まれてきているのかなって思っています。


ー みんな電力が発電所を選ぶ基準はあるのですか。

長島 調達基準を設けています。例えば発電所を作るタイミングで周りの環境を破壊していないかどうかとか。火力や原子力と違って、再エネは小さなところが多いんですね。つまり地元住民の目に触れることも多い。地元住民の理解が得られているかどうかということなども確認しながら調達しています。山の森を伐採して、自然を破壊するようなソーラーってその場所には本当に必要なの?そんな問いかけにもつながると思っています。

ー みんな電力が設立されてから10年あまり。日本での電力の自由化は広まってきているのですか。

長島 電力の小売りは2016年4月に自由化になりました。少しずつ広がっている反面、電力会社を1回も変えたことがないという方も多い。これまでの6年より、自由化されて10年になるこれからの4年のほうが、電力や脱炭素に対するみなさんの意識が高まってくると思います。


ー 確かにロシア・ウクライナのこともありますし。

長島 電気の燃料となる石油や石炭、天然ガスは輸入に頼っています。世界の情勢によって、否応なく左右されてしまう。少しでも電気の自給率を上げることができたのなら、外部からの影響を抑えることができます。脱炭素の文脈で言えば、家庭から排出されている二酸化炭素の約半分が電力由来だとされています。100パーセント再エネに変えるだけで、二酸化炭素の排出が減らすことができますから。今後は、脱炭素、再生可能エネルギーへの普及のスピードは、どんどん速まっていくのは間違いないと思っています。


ー 今後、みんな電力としてどんなビジョンを持っていますか。

長島 「顔の見えるライフスタイル」を提唱しています。電気だけではなく、何気なく使ってしまったり買ってしまったりしたことが、社会や地球にとってマイナスになってしまっていることが大きな課題かなと思います。児童労働や環境破壊につながってしまっている部分もある。意識しなくても、マイナスにならずにプラスになっている状況を作ること。我々の強みであるおもしろさや工夫だったりで、多くの人を巻き込みながら見える化していく。意識せずともプラスでつながっている、プラスが巡っていく。電力だけではなく、どの業界でもそれが当たり前になっていることが大事だなって。


ー 個人の契約者数はどのくらいなのですか。

長島 1万契約を超えたところです。2025年に50万契約を目指しています。1契約でおよそ1年間で1.9トンの二酸化炭素が削減できます。ですから100万トンの削減を目標としています。


ー 50万人という数字は大きいですね。

長島 今までの日本には、環境保護に対する50万人というリアルなコミュニティはなかったと思います。我々も世の中に対して何が大切なのかっていうことを更新し続けていく。契約してくれている50万人と一緒にアプローチしていけば、環境の課題解決に向けて格段にスピードアップすると思っています。


長島遼大(みんな電力)
「顔の見える電力」を掲げ、東日本大震災直後の2011年5月に設立。現在は、電力小売事業、再生可能エネルギー発電所の開発・販売・メンテナンスなどのほかに、ライフスタイル事業も展開している。毎日使う電気を選択することによって、その電気の生産者を応援できるのがみんな電力の特徴。契約している電気の生産者はおよそ600を数える。https://minden.co.jp/

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