オフグリッド(系統から離れる)の実現。【粟田隆央(パーソナルエナジー・橋の下世界音楽祭)】

その場で得られる自然(太陽光)エネルギーだけを使って開催されている〈橋の下世界音楽祭〉。オフグリッドは、自立した自分たちの理想郷を実現するための確かな手段だったのだろう。国家をという存在が介在しない、自由な独立国を目指す意志。

文・写真(ポートレート) = 菊地 崇
text・photo(portrait) = Takashi Kikuchi

ー 粟田さんが手がけているパーソナルエナジーとは、どういうシステムなのですか。

粟田 簡単に説明すれば、電力会社そのものなんです。みなさんが抱いている電力会社のイメージって、東京電力とか関西電力とか名前が知られたものだと思うんです。パーソナルエナジーは、電力会社を小さくしたもの。発電して、変電して、送電する。機能をギュっと小さくしたシステム。個人でも使えるエネルギーだから、パーソナルエナジー。かつてアップルがパーソナルコンピュータを作ったでしょ。それと同じ発想です。


ー いわゆるひとりひとりが自分のコンピュータを持つということと同じ?

粟田 ケネディ大統領の時代に、アポロ計画で宇宙に行く計算のためにコンピュータが使われたんですけど、当時からしばらくは、コンピュータは権力側のツールっていうか、兵器の一種みたいなものだったんですね。個人でも使えるように、哲学的っていうか智慧を開くことを目的にパソコンが生まれた。エネルギーも権力寄りじゃないですか。私たちが考えたのは、それから解放されること。パーソナルにエネルギーが作られて自分たちでコントロールできるマシンがなかったので、それを作ろうと思ったんです。


ー 電気を自分たちで作ろうと考えるようになったきっかけはなにだったのですか。

粟田 阪神大震災です。神戸に会社があって暮らしていました。一瞬にして街が壊れてしまった。そして1から街を作り直した。自分たちがいる場所を自分たちで作るっていう思いが強いんですね。電気にしても同じ。電気が人を不幸にするっていうことに対して、すごくナーバスというか、尋常じゃないほど許せないんですね。電気は、人が楽しむためにあるものなので、そういうものをみんなが使うためにはどうしたらいいのかっていうことをずっと考えてやっているんです。

ー 〈橋の下世界音楽祭〉では、パーソナルエナジーの電力を使っています。

粟田 1回目の開催が終わってから連絡があって、「自分たちで祭りを作り上げていくにあたって、エネルギーも自分たちで作りたい。ちょっとでもいいから力を貸してくれないか」という相談をもらって。主催しているタートルアイランドの(永山)愛樹に会って話したら、考えていることが近かったんですね。だったら協力とか協賛とかという形ではなく、仲間になって一緒にやろうと。そして2年目からはずっとやっています。


ー 〈橋の下〉では、どれだけの電力を使っているのですか。

粟田 結局、そこが問題の根源のひとつなんです。いつから今のような電気の使い方をしているのか。電気があって当たり前っていう世界観が日本で成立したのは、たぶん80年代中盤以降なんです。40年も経っていない。


ー 自分は60年代生まれですけど、確かに小さな頃は停電がよくありました。

粟田 本来的には使う量に合わせて電気を作ればいいだけなんです。使い過ぎている量を、無理矢理に作ろうとしている。使い方次第で、電気なんてどうにでもなるんですよ。足るを知ることが大切で、足るを知ることからはじめないと何も生まれない。


ー 送電線を大手電力会社10社が持っていて、その電線を電気が通ってくるということを当たり前のように受け入れているのかもしれません。


粟田 それって当たり前じゃないんですよね。当たり前のことなんて世の中にはひとつもないはずなのに、フリーライドさせられちゃっている。究極的には、ひとりひとりがオフグリッドすれば、送電線はいらなくなるし電力会社もいらなくなる。誰かが作ったインフラの部分には自由なんてないんです。自由になるためには自分たちでインフラを作るべきだと思っていて、そのためにはグリッドから離れること、パーソナルっていうことが重要なんです。

ー 自分たちで自分たちの場を作る。そのメッセージが〈橋の下〉と通じているメッセージなんだと。

粟田 作り出したものはお金と交換するということが当たり前だと思っている人が多い。生きていくために必要なもの、例えば米や野菜などの食料も電気も、お金っていうものを介して交換しているから、経済優先の社会に陥ってしまっている。貨幣ってほとんどが国家が発行しているもので、お金を介しての取引って国家を経由させているのと一緒なんですよね。国家を介在しない関係性。交換する間の関係性が構築されていれば、物と心意気が交換されてもいいわけです。自分たちが生み出した価値を何と交換するか。


ー その意味でも〈橋の下〉が無料でやっていることも大きいと。

粟田 無料ではなく何かと交換しているんです。心意気や魂を持ち寄って交換する。「ソウルビート」とネーミングされているのは、そういう意味だと思っています。


ー パーソナルエナジーによってどんな社会をイメージしていますか。

粟田 オフグリッドとは、自分が生きていくために必要な最低限の部分は自分でなんとかできるように考えて行動すること。国から離れてひとりひとりが国になるということが私のなかでは大きな目標です。電力会社から電気を送ってもらうかどうかというレベルではなく、新しい創造をする。自分たちが生み出しているエネルギーで違う世界を作る。それに対して共感が得られるか否かっていうのは、時代の求めだと思っています。


粟田隆央(パーソナルエネジー・橋の下世界音楽祭)
電力会社に依存しない独立電源システム「パーソナルエナジー」を2011年に開発。2016年には神戸市「神戸発・優れた技術」を持つ企業として認定された。「パーソナルエナジー」は太陽光発電を主電源として採用。〈橋の下世界音楽祭〉の2度目の開催から、フードコートなどを含む会場のすべての電力は「パーソナルエナジー 」が担っている。〈橋の下〉を運営する「火付ぬ組」のメンバーでもある。http://www.personalenergy.jp/

橋の下世界音楽祭 Soul Beat Asia 2022

開催日:9月2日(金)〜9月4日(日)

会場:豊田大橋の下 千石公園

入場:橋の下サポーターズパス制(祭り参加協力費)

出演:TURTLE ISLAND、OKI DUB AINU BAND、Jagatara2020、LAUGHIN' NOSE、折坂悠太、GEZAN、ALKDO 5、T字路s、サヨコオトナラ、切腹ピストルズ、OBRIGARRD、FREAKY MACHINE、ほか



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