形あるものの無限性。【ちゃぶ台 / ミシマ社(三島邦弘)】

一冊の本には、かけがえのない出会いをもたらす力がある。形があるからこそ生まれる無限の関係性。一冊入魂をモットーに、時代に流されることのない真のある本や雑誌を生み出し続けている。

文 = 宙野さかな text = Sakana Sorano
写真 = 伊藤愛輔 photo = Aisuke Ito


ー どんなきっかけでミシマ社を立ち上げたのですか。

三島 大学を卒業して、2社の出版社に勤めていました。2社目が、会社と自分が水と油というか、どうしても自分の体質と合わなかったんです。何度も気持ちを持ち直して頑張っていたんですけど、フッと「自分で出版社を作ればいいんだ」って直感的に閃きました。自分なりにやることはやって、万策が尽きたなかでポンと出てきたアイデアでした。


ー ミシマ社でどんな本を作ろうと思っての船出だったのですか。

三島  2000年代前半は雑誌がどんどん売れなくなり、書籍は溢れすぎて、一冊一冊が読者に届かない飽和状態でした。一冊一冊を丁寧に作って、出す冊数を絞って、一冊一冊に対して愛情をかけて届ける。それは作るだけではなく販売でも。本がもともと持っている性質を生かすこと。生鮮食品のように、今日か明日に売らなきゃいけないってことはないわけで、10年先20年先であっても、その人にとって必要とされる本、読んで良かったと思える本。そんな出会いが常に生まれてくるようなやり方をすれば、なんとかなるんじゃないかと思ったんですね。根拠があったわけでもないですけど。

ー この本を作るかどうかの線引き、あるいは企画はどのように決めているのですか。

三島 ちいさな総合出版社とうたっているので、ジャンルは関係なく面白いと思う本を作る。面白いの基準はあるわけではなく、かなり主観的ではあるのですけど。


ー 三島さんや編集者の方が面白いと思うかどうか。

三島 そここそが重要なんだと思っています。出版社である意味って、出版社が発行する本の面白さを担保するということ。


ー そこには読者だったり、売ってくれる本屋さんを意識したりということもあるのですか。

三島 立ち上げから5年か6年くらいは、そんな気持ちもあったと思うんです。10年ほど前から、ミシマ社ではサポーター制というものをやっています。あるサポーターの方が「三島さんが面白いと思うことを思いっきりやってください。それをサポートしたいから」と仰ってくれたんです。ミシマ社が全身全霊の思いを込めて作ってくれた本こそ読みたいと言ってくださる方がいたんです。そのときに吹っ切れたというか。僕は編集者であり、出てくる本に対して責任を持つ発行者でもあります。自分たちが面白いと思える本という軸足がしっかり置けるのなら、書店や読者が気に入るかを先には考えない。裏を返せば、きっと、自分たちの読者は受け取ってくれると信じきるということです。


ー より自分たちの面白いと思える視点が大切になってくるということですね。

三島 自分たちの基準値がより問われる。曖昧な基準しか持っていなかったり、独善的な視野しかもてなかったら、それはすごく良くないことで。ただ守りに入ってもダメです。そのときそのときの面白さに向き合えないと、気づかないうちに現状に止まってしまう。止まるどころか後退さえしてしまうかもしれない。僕自身は同時代に生きて、今の読者にしっかり届くものを作りたいと思っています。同じ時代に、同じ空気を吸って、同じ景色を見ているいる人たちに本当に届く言葉を残せたら、最終的にはそれが普遍的な本になっていくと考えているので。読者の方にとっては、読んだ本のイメージがミシマ社のイメージになる。そのイメージをいかに次の一冊では捨てることができるのか。読者とギャップが生まれたとしても、ギャップが生まれることを恐れないってことも大事かなと思う。

ー 紙という存在に対しても強いこだわりがある?

三島 個人的に言うと、紙の本で読んだものじゃないと身体に入ってこないというか。視覚だけではなく、知らず知らずのうちに嗅覚も使っているし、ページをめくることで触覚も使っている。読書って全身行為なんですね。使われる書体、紙質、印刷、形態も含めて、その本にとっての最高の形を考え、それぞれの本を作っています。電子書籍ではできない表現、紙でしかできない本作りを心がけています。


ー ホームページのなかで、三島さんは「ウェブが有限であり、紙は無限である」ということをお書きになっています。

三島 けっこう逆に思いがちですよね。形にするからこそ無限性が生まれる。有限なものにすることによって無限性が生まれる。関係性で言えば、無限にコンテンツを広げていけるから無限かっていったら、まったくそんなことはない。限定的な関係性って、結局は狭い関係しか生まれていない。一冊になった本は、時空間を超えて関係性を作られる。予想していなかった結び付きが生まれる。最初から根っこで通じ合えるような感覚で出会えるというか。それってかけがえのないことですよね。


ー これからどんな出版人でありたいと思っていますか。

三島 僕にとって出版は自己表現ではありません。出版という仕事に関われて、すごく救われたという思いもあります。つないでいくやり方は時代とともに当然変わっていくんだけど、自分の代で切らせてはいけないという思いが強い。そのときに胎動しているものをしっかりキャッチして、パッと動ける。そういう本を作りたいし、生きた言葉を使って形にできるという状態で常にありたいと思っています。自分自身としても会社としても。


ちゃぶ台 / ミシマ社三島邦弘
一冊の本が持つ力を信じて2006年に設立された「原点回帰の出版社」。旧態依然のままでは出版そのものが疲弊してまうと危惧し、07年から取次を介さず書店と直接取引を行うという営業戦略をとっている。13年からサポーター制を開始。「生活者のための総合雑誌」の『ちゃぶ台』を15年に創刊。三島氏は『ちゃぶ台』の編集長も務めている。『ちゃぶ台9 特集:書店、再び共有地』は5月27日(金)に書店先行発売。https://mishimasha.com/


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