神奈川県瀬上沢 未来に手渡していく自然

未来に手渡していく自然。 角田東一

人口が減少する時代に突入した日本。横浜では鉄道駅を中心としたコンパクトな市街地の形成がマスタープランとして掲げられている。一方で貴重な森林を住宅地に変える開発も計画されている。未来に残すべきものは何なのかが問いかけられている


文 = 宙野さかな text = Sakana Sorano
写真 = 林 大輔 photo = Daisuke Hayashi


 6月上旬、そこは横浜市内とは思えないほど数多くのホタルが乱舞していた。その数は、1500匹から2000匹と言われている。ホタルが生息する条件はいろいろあるけれど、もっとも基本的なことが「きれいな水がいつも流れている川」なのだという。横浜南部にある瀬上沢。瀬上池を中心に、瀬上市民の森として、この森の自然は守られている。


 この森を源にした小川が流れ、谷戸が形成されている。谷戸沿いに隣接する里山で宅地造成と大型商業施設建設という名目の環境破壊の計画が持ち上がっている。計画されている面積は32ヘクタール、およそ東京ドーム7個分に及ぶ。


「森があることによって直接的に恩恵を受けているのは、夏が涼しいということです。横浜市がデータを出していますけど、例えば平成15年の熱帯夜が、横浜の中心部では40日だったのに対して、このあたりは11日しかありませんでした。11日というのは大船駅近くでのデータで、瀬上沢はもっと少なかったと思います」と語るのは、開発予定地の近くに住む角田東一さん。角田さんは、12年前にこの開発の説明会に足を運んだことをきかっけに、瀬上沢の自然を守るNPO法人を設立した。


 横浜市は、都市計画マスタープラン全体構想において、都市づくりの目標として鉄道駅を中心となたコンパクトな市街地の形成を掲げている。2020年をピークに、神奈川都民が多い横浜市でさえ人口減少が予見されていることを見越したプランだ。


「横浜市のなかでも東京から遠い場所にある港南区は栄区は、すでに人口が減っています。これからは街を広げるんじゃなくて、街を小さくすることが必要なんです。駅の近くとか、便利なところに寄せていく。新しい宅地をつくれば、そこに人が入る分、どこかが空いてしまう。瀬上谷戸は、横浜で唯一と言っていいほど水源から谷戸が終わるところまでパーフェクトに残っている場所です。これからもずっと残していかなければならない自然です。国交省は第五次国土計画のなかで、これからは緑地を守ることが大切で、宅地は増やしちゃいけないと書いてある。瀬上沢の自然を壊して、街を広げようなんていうのは、私に言わせれば社会悪ですよ」


 市域の緑の減少に歯止めをかけ、緑豊かな横浜を次世代に継承するために、横浜市はみどり税を導入している。この税金が使われるのは、「樹林地を守る」「農地を守る」「みどりを作る」ことに限定されている。「地主さんが相続などで売らざるを得ない状況になったときに、緑地を守るために土地を買い取ることを目的のひとつとした税金なんです。こんなみどり税のような税金があるのは横浜市が最初で、ある意味では先進的ですよね。瀬上沢の自然を残すために財源が必要ならば、みどり税のようなものを使ってもらえればと考えています」


 角田さんは、瀬上沢の自然を体験してもらおうとツアーを毎週のように実施している。開発予定地には古代製鉄遺跡や縄文遺跡、160万年前の貝化石なども歴史的な文化遺産も残されている。


「子どもにとっても、こういうところでのびのびと遊んで、いろんな自然体験ができるっていうことが大切です。昆虫だとか小動物さとか、実際に見て学べるってものすごく大きいんです。『こんな狭いところの自然を守ったって、地球規模の温暖化防止には影響ないよ』という方もいます。今までいろんな地域の自然を壊してきた先進国の私たちひとりひとりが、身近な自然を守っていかなきゃいけない。人間も、昆虫も、小動物も、木々も、みんな同じ生物です。すべてが繋がりあって生きている。自分だけ、人間だけ生きていられるっていうことがないですから」


 開発は日本の至るところで行われている。地域の人でさえ知らないままに進んでしまっている開発も少なくない。角田さんはすべての開発を反対しているわけではない。未来にとって必要な開発と不必要な開発がある。近未来ではなく遠くの未来を描くこと。そのためには今を知る必要がある。


関連情報

認定NPO法人 ホタルのふるさと瀬上沢基金

横浜の南部、栄区上郷町にある瀬上沢。この地域の美しい自然や文化遺産を後世まで残していくことを目的に設立。2008年にNPO法人に認証され、2013年に認定NPOに。瀬上沢を歩くガイドツアーなども行っている。 http://www.segamikikin.org/

Save Segami

危機的な状況をうけて、瀬上沢を守りたいと活動する「 上郷・瀬上の自然を守る会(横浜市)」と認定NPO法人 ホタルのふるさと瀬上沢基金が協働で、この5月に立ち上がったサイト。開発計画のことなどがわかりやすくに紹介されている。 http://savesegami.com/

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