【阿寒への旅2】手つかずの自然に触れる。アウトドアを通して阿寒の大地から学ぶ未来。


 現在、日本には32カ所の国立公園がある。瀬戸内海、雲仙、霧島の3カ所が日本最初の国立公園に指定されたのは1934年(昭和9年)3月のこと。同年の12月に、大雪山などとともに、阿寒も国立公園として指定された。阿寒は北海道でもっとも歴史のある国立公園のひとつだ(2017年に阿寒摩周国立公園に名称が変更になっている)。

 阿寒への東京などからの空の玄関口になるのが釧路空港だ。釧路空港から阿寒に240号線で向かう。まっすぐに伸びる道の両側にはいくつもの牧場が連なっている。緑が広がる牧場は北海道をイメージさせてくれる風景のひとつだ。牧場のエリアを抜けると、森林地帯に入っていく。クチャで使われていたエゾマツなどの北方常緑針葉樹のなか、ミズナラなどの広葉樹も鮮やかな紅葉を見せてくれる。一言で「森」と言ってしまうけれど、森にも多様な色があることを車窓から感じていた。

 天然林に支配されている阿寒。長くこの地で暮らしてきた先住民族であるアイヌ。そして国立公園に指定されたことによって、人間に荒らされることなく、自然が守られてきている。その自然をダイレクトに感じ、地球と遊ぶアクトドア・アクティビティも、阿寒を訪れる最大の理由のひとつだろう。

 TSURUGAアドベンチャーベースSIRIには、阿寒の自然を体験する様々なアクティビティがラインナップされている。トレッキングやハイキング、フィッシング、ネイチャーウォッチング…。雪のシーズンであればスノーシュー。ビギナーからエキスパートまで、誰もがそれぞれの楽しみを発見することのできる阿寒というフィールド。今回はファットバイクを体験させてもらった。

 近所への買い物などで自転車は使うことはあるものの、あくまでも舗装された道路でしか乗ったことがない。ロードもオフロードも、アウトドアでの自転車はまったくの初心者だ。車がほとんど通らない未舗装路がファットバイクのコースとなった。ファットバイクの乗り方や乗っている際のルールを教えてもらって、ヘルメットを被っていざ道へ。道の小石などの存在が、タイヤを通してダイレクトに伝わってくる。舗装している道とはまったく違う感覚。自転車を運転することに神経を集中させる。スピードもそれほど出ていないはずなのに、ずいぶん速く感じる。少し走っているうちに運転に慣れてきたのか、周りの景色を楽しむ余裕が出てきた。ダート道の両側は、人が入ることが規制されているエリアだ。多様な樹木が秋色に染まっている。小川が流れている森のなかに入らずとも、晩秋の自然の美しさを感じられた。自転車のコースはおよそ8キロ。緩やかな下りと平坦な道がほとんどで、足に負荷を感じられる上りはわずか。阿寒湖が近づいてきたコースの終わり近くには、鹿の姿を見ることもできた。

 夜は阿寒湖畔のボッケ遊歩道での「カムイルミナ」を体験した。「カムイルミナ」は、プロジェクションマッピングやジノグラフィー(光と音の実験装置)などの最新鋭のデジタル技術を駆使した演出や仕掛けが散りばめられた森を散歩しながら、アイヌに古くから伝わるユーカラ(叙事詩)「フクロウとカケスの物語」をベースにした物語を追体験できる夜の体験型アクティビティだ。美しい夜の森のなか、森の音とシンクロするように聞こえてくるサウンドに導かれて歩を進める。自然とデジタルが見事にハイブリッドしたナイトウォーク。未知の扉を開いていくような感覚があった。自然のなかでの壮大なショーに、歩きながら自分も参加する。そしてウォークを終えた後には、アイヌの教えである「自然との共生」が心に残る。「カムイルミナ」は夜に暗さがある阿寒だからこそ現実化したアクティビティに違いない。(「カムイルミナ」の2021年の営業は11月14日で終了。2022年の営業は5月下旬から11月中旬が予定されている)

 阿寒を離れる日、阿寒湖を見渡せる露天風呂に入った。雄阿寒岳の山頂までくっきり見渡せる。目の前に広がっているほとんどがありのままの自然だ。先住民であるアイヌが阿寒で続けてきた自然とともにある暮らしこそが、持続可能な未来へつながるビジョンに他ならない。アメリカで「自然保護の父」と呼ばれたジョン・ミューアの「自然の保護は自然を知るところからはじまる」という思いは、国立公園の理念の礎になった。アイヌの文化を含めた阿寒の自然がいかに懐の深いものなのかを、その地に訪れることによって知ることができた。阿寒で多くの時間を過ごすことで、さらに深く阿寒の魅力を感じることができるのだろう。自然と楽しむことで自然から学ぶ。春も夏も冬も、晩秋とはまったく違う自然の色に包まれる阿寒。別の季節にも再訪したい。

文 = 菊地崇

写真 = 原田直樹

取材協力 =あかん遊久の里 鶴雅TSURUGAアドベンチャーベースSIRIAll for 1,Inc

0コメント

  • 1000 / 1000