【POWERS2(加藤直樹・元住吉)】ライブというミュージシャンの表現の場を守るためのアクション。

都内ではライブもイベントもほとんど行われていなかった昨年6月上旬にライブを再開した。ライブが不要不急のものではなく、心を豊かにしてくれるものだということを再確認させてくれる場所。コロナに負けない、ライブは無くさない、というメッセージを発信し続けている。

文 = 菊地 崇 text = Takashi kikuchi
写真 = 林 大輔 photo = Daisuke Hayashi

ー「濱Jam祭」のオーガナイズをはじめたのは、どんなきっかけから?

 2003年に「濱Jam祭」をはじめました。20代の頃に、いわゆるレイブパーティーに行ってたのですが、自由で刺激的ですごく楽しかった。2000年くらいになるとアンダーグラウンドだったレイブがメジャー化していって、雰囲気が変わっちゃったんですね。それで自分の遊び場は自分でつくろうと思ったんです。そして新宿ロフトのオールナイトイベントでDACHAMBOのライブを見て、「今後のパーティーシーンをおもしろくしていくのはこいつらだ」って直感的に感じたんです。


ーイベントをオーガナイズするなんて、まったくやっていなかった?

 はい。自分の遊び場をつくるだけだから儲けなんて考えていなかったですね。最初の「濱Jam祭」はDACHAMBOがメインでチケット代は1800円。上がりは全部アーティストに還元して、飲み代も自分で払って、誰よりも酒飲んで、誰よりも踊る。最後は記憶をなくして帰る、みたいな(笑)。自分の遊び場だからそれでいいやって。


ーそしてPOWERS2のブッキングもするようになった?

 トラックのドライバーをしていたんですけど、リーマンショックでドライバーの仕事がなくなっちゃったんです。どうしようかと思っているときに、POWERS2からやってくれっていう話をもらって。


ー去年の4月から5月にかけての緊急事態宣言が解除されたときには、POWERS2がいち早くライブを再開していたと思う。

 ミュージシャンだけでなく、みんなが精神的にもおかしくなっていたレベルだったと思います。ライブをやらないっていうことが精神衛生上良くないし、自分と同じような思いの人は多いと思ったので、できる範囲でやろうと動き出したんです。


ーその頃のライブするミュージシャンの反応ってどうだった?

 さすがに6月はライブに躊躇するミュージシャンも少なくなかったですけど、やりたいって声を上げてくれるミュージシャンも多かった。都内と神奈川のライブに対する温度差って、けっこうあったと思います。それは2度目の緊急事態宣言のときも同じでしたけど。


ーライブを再開するにあたって、どんな思いが強かった?

 現場からリアルミュージックを届けたいっていう気持ちは前からあったんですけど、それがより強くなりましたね。人数制限だったり時間制限だったり、いろんな制限があるなかで、今できるベストなことをやる。それを続けることで、お客さんもついてきてくれるということが実感できています。感染症対策にしても、みんな守ってくれるし。おかげさまで、去年の6月から感染者が出たという話は一度も聞いてません。


ー音楽、あるいはライブがもたらしてくれるものってなんだと思う?

 ファッションから生きていくための考え方まで、あらゆることに影響を及ぼすものだと思います。人類にとって音楽もダンスも根源にあるもの。どちらも言語と同じように、人類と共に進化してきた文化だと思います。ライブで鳥肌が立ったり涙が出てきたりってけっこうあるじゃないですか。きっとDNAのどこかに刻まれているんだと思います。


ーその進化の現在形のひとつがライブであるわけだし。

 コロナ禍になってから新しい生活様式とか新しい価値観とかって言われるじゃないですか。急に変えなきゃいけないっていうのは完全にプロパガンダだし、インフォデミックだと思ってます。変わらなくてもいいことっていっぱいあるわけで。ライブもライブの楽しみ方も、時代に即して徐々に変わっていくはずだし。この一年でコロナに関してはわかってきたことも多いですよね。統計とか事実に基づいて、自分の頭で考えることが、今一番求められているんじゃないかって思います。


ーライブっていろんなことを考えさせられるリアルな場所でもあるよね。

 コロナによってライブがまったくできないっていう状況にさせてはいけないんです。そのためには、みんなが声を上げていかなきゃいけないと思う。ミュージシャンにも声を上げてほしい。社会に対して影響力のあるミュージシャンができることってあると思うんです。


ーPOWERS2のいいところって、どんなところだと思っています?

 こんな時代でも、わりと普通にライブが見れちゃうとこですかね。もちろん最低限の対策はしていますけど、過剰にしないことでミュージシャンもお客さんも、より楽しんでいるように感じています。今はライブハウスもミュージシャンも本当に大変なので、余裕のある人はできる限り会場に足を運んでほしいですね。


ー音楽、ライブという文化をみんなで守っていかないと。

 このままでは表現の場がどんどん失われていくわけですから。実際につぶれちゃったお店もあるし、開催できないフェスも出てきてますからね。


POWERS2 ( 加藤直樹・元住吉)東横線で渋谷と横浜の中間に位置する元住吉に2007年オープン。以来、ローカルミュージシャンからライブの第一線で活躍するミュージシャンまで数多くのライブが行われてきている。セットリストが決まっていないインプロビゼーションのセッションライブが多いのも特徴。ライブを楽しむエネルギー源となる食事も人気が高い。新丸子のPOWERSは姉妹店。https://www.powersbar.com/powers2/

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