すべてが自然分解する服づくり。着ることから持続可能社会を目指す。【小栗大士 tennen】

CO2の排出量が全業界の約10%を占めるなど、世界2番目の環境汚染産業であるファッション。ファッションの真のサステナブル(持続可能)は、100パーセントすべてが地球に還る服つくりからはじまる。

文・写真 = 宙野さかな text&photo = Sakana Sorano


ー 小栗さんが鴨川に来て、どのくらいになるのですか。

小栗 2002年に来ているんで、もう18年ですね。


ー 移住先を鴨川にしたのは、やっぱり海があったから?

小栗 サーフィンをやりたいっていう気持ちはもちろんありましたけど、鴨川にしたいっていう特別な理由はなくて。ただ勝浦から南って、風景が南国風にちょっと変わるんですね。海の色が違うんです。海が青くなって、空が広くなって色も変わる。なんとなく、ハワイっぽい雰囲気を鴨川に感じていて、直感だけで来た感じです。


ー そして自分のブランドルールズピープスを立ち上げた。

小栗 標高800メートルのアウトドアウェアというコンセプトで。2003年4月のことでした。


ー ルーピーは、環境をより意識したブランドへと徐々に進化していっているように感じていました。

小栗 環境に対してのアプローチは、鴨川に住んでいることで大きくなっていったのかもしれないですね。オーガニックコットンやヘンプを中心に天然素材を使うブランド。


ー 鴨川で暮らすことによって、地球の接し方というか、地球への視点が変わったのではないですか。

小栗 確実に変わりましたね。もともとサーフィンをやっていたので、東京に住んでいたときも、海からの風を他の人よりは感じることができて。こっちに来たら、それが日常なんですよね。海のリズムに合わせた生活スタイルっていうのかな。


ー じゃあ、今日も海へ?

小栗 今朝も海に入ってきましたよ。パターンとしては、朝に海に入る。夏至が近い時季は日の出が早いので4時起きです。海に入ることはジョギングみたいな感じですかね。

ー tennenはどういうきっかけではじめたのですか。

小栗 前の会社の同期がたまたま僕が載っていた雑誌を見て、自分の会社(YSインター)で新しいブランドをやるから協力してもらえないかと声をかけてもらったんです。最初にコンセプトとして提示されたのは「アーバンアウトドア」。何度か話していくなかで、「30年40年50年続くようなブランドづくりであればお手伝いさせてください」って提案して。長く続くにはどうしたらいいのかっていうところから掘り下げていったんです。


ー それがリサイクルであったり、土に還る素材ということにつながっていったのですね。

小栗 循環する洋服づくり。アウトドアで必要とされる合成繊維による機能は外しました。50年続けるために、これからの時代はどうしたらいいのかっていうことも頭のなかでずっと考えて、tennenのコンセプトが出てきた感じなんです。


ー ルーピーで培ってきたことの延長線上にあるような気がします。

小栗 より精度を高めて、よりクオリティを高めて、自然にもっと寄り添う。最初に企画したソックスだけは、どうしても強度の問題でナイロンも使って作ったんですけど、今後はおそらく生分解性100パーセントのものしか作らないっていう割り切りをすると思います。


ー ボタンも含め、すべて土に還るもの?

小栗 ボディの素材だけではなく、縫い糸、ボタン、ブランドネーム、下げ札、品質表示まで、すべてで天然繊維を使っていく。


ー そう考えると、天然素材のアイテムといっても、そうではない部分も多いんですね。

小栗 実はそれが洋服のリサイクル率を下げている大きな原因でもあるんです。洋服って、付属も含めるといろんなものが混じっているんです。洋服のリサイクル率って20パーセントにしかなっていないんですよ。ほとんど焼却されてしまう。ペットボトルは85パーセント。圧倒的な違いがありますよね。今、地球上の産業のなかで、石油産業の次に環境汚染をもたらしているのはアパレル産業だと言われているんですから。


ー 染めたりすることもそうですよね。

小栗 コットンをつくることもしかりだし。焼却するとCO2も排出される。大きなことを言うと、そこを見直して100パーセントリサイクルできる洋服にしようっていう考えなんです。万が一ゴミになったとしても地球に還る。だからゴムも使えないんです。シンプルなものづくりって素材とかも突き詰めないと難しいですし、引き算のデザインになるんですね。つくり手としては、めっちゃ難しいですよ。逆に一回気に入ってもらえたら、長く愛用してもらえるものになるのかなって思っています。


ー 移住される人は増えていますか?

小栗 もっと増えてもらいたいんですけど。コロナによって、意識は変わってくるのかなって思いますね。何が大事なのかっていうのはわかったし、本質がなんだっていうこともわかったわけですから。毎日満員電車に押し込められて、決められたルーティーンで働く必要性がどこまであるのかっていうことが、確実に頭のなかに植え付けられたわけですし。今の若い世代の人たちのほうが、僕らの世代よりも上手くやっていくような気がしますね。パラレルワークとか二拠点生活とかを実践しつつ、自分なりに上手くミックスしながら、いやすい場所とか心が豊かになるような場所で、優先的に人生を組み立てるような。その心が豊かになるっていう部分で、地球環境のことも少しずつ意識するようになってくるような気がします。

取材協力 = rulezpeeps Kamogawa Store

小栗大士 tennen
サーフィンを日常とするために鴨川に移住。翌年に自らのブランドrulezpeepsを開始。「ゴミにならず土に還る服つくり」をコンセプトに18年春にスタートしたtennenでは立ち上げからプラン&デザインを担っている。https://tennengood.com/


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