リアルと配信がハイブリッドされたフェスの未来系スタイル。【佐藤タイジ THE SOLAR BUDOKAN】

野外フェスを未来のライフスタイルを発信する場と位置づけ、「THE SOLARBUDOKAN」では太陽光発電システムだけにこだわってきた。リアルと配信というハイブリッドでの開催で提示される未来のライブスタイルとは。

文 = 菊地 崇 text = Takashi Kikuchi
写真 = 須古 恵 photo = Meg Suko


ー 今年の3月から4月。新型コロナウイルスで日本が自粛へと向かっていくとき、タイジさんはソロツアーが予定されていました。

 去年11月に11年ぶりのソロアルバムをリリースして、そのリリースツアーが5月まで続く予定で。KenKenと一緒だったから、旅の途中でふたりのユニットをComplianSと決めたんす。3月いっぱいはやってんだけど、4月以降はキャンセルになって。それですぐに配信に切り替えて。


ー 配信に切り替えられたのは、東日本大震災後の経験もあってのことなのですか。

 東日本大震災後、すぐにLIVE FOR NIPPONをスタートさせたじゃないですか。もともと配信ありきではじめたイベントだから。ラジオでもライブをやっているし、お客さんが目の前にいない演奏っていうことに対して、抵抗感っていうのがいつの間にかなくなっていて。


ー 東日本大震災後の混沌とコロナ禍の混沌。どこか共通している部分もあるような気がしています。

 共通している部分は、見えないものに対する恐怖をみんながシェアしているっていう状況。日本は3・11によって、見えない恐怖みたいなものに慣れてしまっている部分もって、パニックにはなりにくい土壌はあったと思う。政府とか行政のやり方に、もうちょっと鋭いツッコミを入れてもいいんじゃないのとは思うけど。どこかに達観しているような雰囲気も俺は感じたから。


ー 声を上げるにしろ、どこに向かって発信するのかがぼやけてしまっていたのかもしれません。

 世界中で同時に起こっているということが、誰もが経験したことがないこと。でもネットというものがちゃんとあって、情報は世界から入ってくる。この状況を、どこか達観している自分みたいなものがいろんなところにおって、その達観している自分っていうのは、世界中に転がっている、実は後世に残るポジティブなエッセンスをちゃんとリストアップしておこうっていう意識があったからだと思うな。


ー その意識がひとりひとりの心に住んでいた。

 個々にとって、そのポジティブな情報って違っていて。明らかに社会が変わっていくじゃない。どういう方向に向かっていくのかを、見ようとしない人も多い。ここしばらくの流れだけど、現状維持を望む人が多くて、その人たちの傾向として、現状が悪化していますっていうことを認めたがらない。


ー 当たり前のことが当たり前でなくなっている現実があるし。

 本当にジリジリ悪化しているわけやん。結果、日本という国の世界からの評価って、すごく低いやん。メディアに対しても政府に対しても。ひでえ状況なんやけど、それを指摘してどうにかしていくことにみんながくたびれているというか、諦めているっていうか。それは嫌やなって思う。


ー 今年の9月も 「中津川 THE SOLAR BUDOKAN」は予定されています。オンライン + リアルのハイブリッドで開催されると発表されています。

 今年は、去年までとかまったく違うものになるわけ。チームは一緒なんやけど、まったく別物になる。それが俺にとってはおもろくて。去年はどこかルーティーンになってしまっているように感じがあったの。「中津川 THE SOLAR BUDOKAN」は7年目に入って、生まれた子どもが小学校に入る年数なわけ。それと同じようにフェスもちゃんと成長していかないと。


ー 多くのフェスが、今年は中止となりました。違う形でも今年開催することが、きっと次のステップになると思うんです。

 俺も絶対そう思っていて。もしかしたら、状況としては来年のほうが悪いかもしれない。だとしたら、どんな形にせよ今年やっておかないと、来年はないっていうことになっちゃうから。


ー これから1年という時間があれば、新しいスタイルも見えてくるんだろうし。

 例えばリモートワークでいいじゃんって部分はすごくあるわけでしょ。子どもとコミュニケーションを取れる時間も増える。こっちのほうがいいって思うことが大事で。前に戻るってことはないわけじゃん。同じところに戻っちゃいけないわけじゃん。だって、昭和には戻れないんだよ。今のほうがいいやって思えるように自分の状況を変えていくことが大事だなって思っていて。


ー 元に戻るのではなく、新しいスタンスを見つける。

 この状況って長く続くかもしれない。続くもんだと思って備えておかないとね。特にミュージシャンはそれを自覚しておかないと絶対に大変。だから、もっと視野を大きくしていけば、ポジティブなことがそこにあると思うな。


ー 今の時代、ミュージシャンとして、あるいはひとりの人間として、どんなことをメッセージとして発信していかなければならないと思っていますか。

 まず元に戻らないのだと認識すること。求められているのは新しい日常みたいなやつなわけやん。ニュー・ライフスタイル。フェスっていう文化も新しいフェーズに入ってきて、何がベストかをみんなが模索している。音楽があって、食い物があって、みんなで楽しさを共有する。オンラインにしろ、ハイブリッドにしろ、フェスの役割っていうのはこれからも変わらない。だからこそフェスには大きな可能性があると思う。


佐藤タイジ THE SOLAR BUDOKAN
1986年にシアターブルックを結成し95年にメジャーデビュー。東日本大震災以降、未来へ向けた提言を発信。原発ではないクリーンエネルギーにこだわり、太陽光発電システムによるロックフェス「THE SOLAR BUDOKAN」を2012年から続けている。今年は中津川会場でのリアルフェス開催は行わず、事前に撮影したライブパフォーマンスと開催当日、生でのパフォーマンスとを融合。中津川、猪苗代、中野サンプラザ、Billborad Live Tokyo など「野外」と「屋内」を織り交ぜたオンラインフェスとして、9月26日27日に加え10月3日4日の4日間で開催される。THE SOLAR BUDOKAN 2020


取材協力 = 新丸子Powers


0コメント

  • 1000 / 1000