【TOSHIZO SHIRAISHIインタビュー1 】長野でフェスを続ける意味。

長野県上田市で「UEDA JOINT」というフリーフェスが開催されていた。会場は街のシンボルでもある上田城跡公園。このフェスのオーガナイザーを務めていたのがblissedの白石才三。「UEDA JOINT」は10回の開催で終止符を打ってしまったけれど、今もなお続けてオーガナイズしているフェスがある。「SUGADAIRA JAZZ WEEK」だ。毎年6月に行われていたが、今年は9月に開催される。セッションをフィーチャーしたフェスは、日本ではかなりレアかもしれない。ソロのミュージシャンとしても精力的に活動を続けながら、フェスに何を託しているのだろうか。


文 = 菊地 崇 text = Takashi Kikuchi
写真 = 伊藤愛輔 photo = Aisuke Ito

–––– 才三さんは、かつて長野県上田で開催されていたフリーフェスUEDA JOINTをオーガナイズしていました。UEDA JOINTはどういうきっかけでスタートしたのですか。

T 2002年に「上田ジャズフェスティバル」として1回目を開催したんだけど、その年の1月にアメリカから帰国したんです。5月に上田市に提案して、そして8月に開催して。今、考えると信じられないスピード感ですよ。

–––– 勢いっていうか集中力がすごいですね。

T 1回目は小規模だったんですけどね。商店街にあったデパートみたいなものが潰れて空き地になっていたんです。そこでやっちゃいましょうってなって。2年はそこでやったんだけど、マンションが建つことになり、そこで上田市内で違う場所に移らなければならなくなったんですね。だったらお城しかないって思っちゃったんですよ。それで提案したらすんなりオーケーが出て。大きなイベントをお城でやったこともなかったし、何をやるべきか市でも考えあぐねていたんじゃないですかね。お城では8回やって、結局10回。

–––– UEDA JOINTの最初のコンセプトはどういうものだったのですか。かっこいいライブをやっている仲間を集めるということ?

T ボストンのバークリーを卒業して日本に帰ってきて、音楽を、ギターをやる気満々でいたわけです。でも上田ではやるところがない。週に1回、長野のジャズ喫茶に行ってセッションするくらい。そこでblissedのメンバーに会うんですけどね。東京ではurbだSOILだって、クラブシーンが蠢き出している。その蠢きをアメリカでも感じていて、帰国したきっかけのひとつでもあったんです。「俺、ここで何をやってんのかな」っていう思いが心のどこかにあって、ライブをする場を作りたいって思ったんですよ。自分の場を作るのと同時に、SOILなどのいい感じになっている仲間たちが東京にいたから、その仲間たちを集めて大きなイベントにできないかなって思って市に相談したんです。

–––– 上田から見えた東京のシーンは、どこか羨ましくもあった?

T 羨ましさというよりも焦りですよね。自分を出せる場を作らなきゃという焦り。

–––– 現在も続いているSUGADAIRA JAZZ WEEKは、UEDA JOINTとはまた違った動きだったのですか。

T 実はJAZZ WEEKも、UEDA JOINTと同じ2002年にスタートしたんです。フライヤーなどに、小さく「KUNI OHASHI MEMORIAL」って入れてあるんです。会場のホテルゾンタックでクニオオハシさんが住み込みで働いていらして、お亡くなりになったんですね。オオハシさんはフリージャズのプロモーターもなさっていたんです。フリージャズのプロモーターなんて、お金になるわけでもなく、難しい世界だと思うんです。本当にジャズを愛して、お酒を愛していた方。オオハシさんの命日が6月24日なんですけど、ゾンタックの奥さんが「命日にジャズを演奏してほしい」と連絡してきてくれたんです。合掌館というホールもあるから、と。

–––– 合掌館というのも、何か因縁めいていますね。

T 合掌造りの館という意味で名付けたらしいです。UEDA JOINTの1年目のとき、毎週通っているジャズ喫茶にローカル新聞のお偉方も常連客でいて、「記事を書いてあげるよ」って言われて、取材してもらったんですね。その新聞の記事を見て、何人かの人が連絡してきたんですけど、そのひとりがゾンタックの奥さんだったんです。その年から毎年6月24日の近くで演奏してきています。今年は、自分のソロアルバムの製作が重なってしまって、9月になってしまいましたが。

–––– 前売りなら3500円で3日楽しめるっていうこと?

T そうです。宿泊費は別ですけどね。ホテルに泊まるかキャンプするか。

–––– UEDA JOINTは10年で終えてしまった。一方でSUGADAIRA JAZZ WEEKは続いている。この違いはどこに起因しているのですか。

T UEDA JOINTは自分の器を超えちゃった感があったんです。今は自分の器のなかでやれるものを目指していて。

–––– UEDA JOINTはフリーフェスの走りのように感じていました。

T 10回やったら、その次に行きたくなったんですよね。その次が何かなって考えたときにセッションというものが浮かび上がってきたんです。みんなでセッションする楽しさが、僕の根元にあるし、それをずっと続けたいなって。

–––– その意志の部分ではオーガナイザーではなく、ひとりのミュージシャンであると。

T だからSUGADAIRA JAZZ WEEKはセッションなんです。タイムテーブルがわかりにくいですけど、21時から次の日のお昼までセッションなんですよ。バンドのライブはお昼にやってもらう。

–––– なぜセッションにこだわっているのですか。

T もちろん、ミュージシャンとして楽しさもあります。実は長野ってギタリストばかりなんですよ。だから集まってもセッションにならない。結局UEDA JOINTを10年やっても、長野でいいドラマーはみつからなかった。だったらドラマーを育てたいって。いろんなスタイルの音楽を聞いて、ドラムがかっこいいと思ってくれて、ドラムをやってくれたらセッションできるのになって。

–––– 若いミュージシャンも多く出てきているのでは?

T 多くはなってきていると思います。ただ、特に長野はなかなかこっちに来てくれない感じがありますね。長野ではないんですけど、中村海斗には注目してください。まだほとんど名前は知られていないと思うけど、要注目のドラマーです。本当に、八村塁、サニブラウン級ですよ。m.t. oliveも天才ベーシスト。この18歳デュオからは衝撃的ですよ。

–––– 自分たちが楽しむ場を作り、そしてそれをセッションすることで共有していく。

T やっている側が楽しくなかったら、絶対にいいセッションにならないですしね。今後は、このSUGADAIRA JAZZ WEEKが1年を通して、自分を発表できる場になっていくのかなって思いますね。

取材協力 = wacca from Hokkaido

SUGADAIRA JAZZ WEEK 2019

開催日:9月21日(土)〜23日(月・祝)

会場:SONNTAG合掌館(長野県上田市)

出演:☆.A/NAOITO、Toshizo and Happy Cats、m.t. olive 中村海斗 duo、他


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