ソロだけではなく、デュオやバンドなど様々なスタイルで年間に100本近くのライブを続けているシンガー・ソングライター。音楽を 届ける旅をすることによって、音楽を作るモチベーションも高くなっているという。
文 = 菊地 崇 text = Takashi Kikuchi 写真 = 須古 恵 photo = Meg Suko
ー ここ何年か、ライブ会場限定のアルバムをコンスタントに発表しています。
椎名 2016年にはじめて作って。ソロとしては10年ぶりの作品だったんですよね。それから毎年作っ て、今年で4年連続4枚目になります。ライブの思い出を持ち帰ってもらうものとして作ったのがはじまりで。
ー 2016年に10年ぶりにリリースすることになったきっかけとは?
椎名 震災後のDACHAMBOのEIJIくんのソロツアーのときに、声をかけてもらって何カ所か一緒に回ったんですよ。それまではライブをバンドでやっていて、ひとりでも回ってもい いんだなって思いはじめて。それからあちこち行くようになったんですよね。年間に100本くらいライブをするようになりました。
ー 数多くライブすることで自分のなかでの変化を感じますか。
椎名 毎回ベストな過ごし方を一生懸命考えているかもしれないですね。身体の調子も違うし、お客さんのノリも違う。そのなかでどうベストな自分を出せるのか。
ー 会場の雰囲気によってセットリストも変えられる。それがひとりでライブするメリットかも。
椎名 ただ最近になって、会場のノリでやるべき曲をやらないのは違うなと思うようになって。かつては自分の曲をひとりでできるようにアレンジをしていなかったから、ソウルのカバーを多くやっていたんですね。盛り上がるんだけど、人の心にも、自分の心にもなんか残らないんですよね。ある意味、俺じゃない他の誰かでもできるっていうか。やっぱり俺じゃなきゃできないこと、傷というか爪痕というか、そういうものを残せないと表現者とは言えないなって思うようになって。カバーもやらないわけじゃないけど、自分の曲だけで勝負しようと思うようになりました。
ー 今年リリースされた『ONE OFTHESE NIGHTS』のテーマは?
椎名 毎回考えていて、今回は原点回帰と思ってます。デビューする前に俺がかっこいいと思っていた音楽を振り返ることがあったんですね。ヒップホップとソウルが出会うような音楽。それをもう一回見つめ直したいと思って作ったアルバムです。
ー 原点に戻るとなると、自分も見つめることにもなる?
椎名 それってなんだろうって堂々巡りをしていたかもしれないですね。ヒップホップとはなんぞや、ソウルとはなんぞやっていうことを問い直しながら。
ー 自分ひとりでもいろんな表現ができ、発表の方法もいろいろある選択肢の多い時代です。
椎名 正直、ライブ会場限定だからアルバムという形態にしているけれど。自分の音楽を発表していくとなると、 YouTubeでもいいし、インスタに動画を上げている人もいるし。なんだっていい。一方でなんだっていいよなって考えると怖くなりますよね。
ー その怖いというのは?
椎名 例えばバズっているような動画を見たり、ストリーミングで聞いたりする。「これは本当にすげえ」って思っても10分後には忘れていたりするんですよ。人の心に残る難しさ。だからこそCDとして形に残しているのかもしれない。
ー 自分のスタンスとして、自分のことをミュージシャンだと思っている? それともシンガー?
椎名 どちらかというとミュージシャンと思っているかもしれないですね。ロイ・エアーズが好きなんですよね。70年代のジャズ・ファンクって呼ばれていたような人たちの、インストなんだけど歌も入っているような音楽にすごく好きなフィールのものが多くて。ミーターズ、ギル・スコット・ヘロン、ファラオ・サンダース…。音楽が混ざっていて、でも混ざりきっていない何かギラギラゴツゴツしているような音楽。だから歌が添え物っぽい音楽に奇 妙な愛情があって。歌詞も含めたムードを含めたサウンドメイカー。そんなふうに自分のことを思っている節が強いですね。サウンドが求めている声の出し方みたいなものを逆算的に考えるというか。サウンドが要請している歌い方っていうものを考えがちかもしれない。
ー ミュージシャンとしての椎名純平は、今のほうが居心地がいい?
椎名 確かに居心地はいいです。ただアルバムもひとりで作るし演奏もひとりだし、ある部分では狭くなっているところもあると思います。ここをこうしたらっていう別の視点があると、パッと開けることもあるんだろうなって。今のひとりというスタンスも気に入っていてライブも続けていくんだけど、ちょっと窓を開けて換気してもいいのかなって思っています。
取材協力 = STOVES(横浜)
『ONE OF THESE NIGHTS』
2016年からライブ会場限定で発売されるCDを自主制作。4年連続の4作目となるのが本作。メジャー時代よりも自由に音楽を作れているという。日本を代表するソウルシンガーとしての存在感を、シンプルなサウンドで聞かせてくれる。
椎名純平
2000年11月8日にシングル「世界」でメジャーデビュー。ソウル・マナーに精通した得難いボーカリストとして、多くのアーティストのリスペクトを受け、ゲスト参加した作品は数知れず。弾き語りやデュオ・ライブ、クラブイベントなど、さまざまな形態でのライブパフォーマンスにも定評がある。https://www.junpeishiina.net/
0コメント