シンガー・ソングライターの東田トモヒロとジャズギタリストの小沼ようすけによるユニットGLIDERS。このユニットをリリースするために立ち上がったフタバレコーズからアルバム『BE-IN』がリリースされたのが2018年11月。そして東田がベースにしている熊本からツアーがスタートする。GLIDERSというユニットに込めた思い、ツアーに向けての思いを東田トモヒロに聞いた。
–––– GLIDERSを作ったきっかけを教えてください。
はじめてようちゃん(小沼ようすけ)に会ったのは10年くらい前のグリーンルームフェスでした。その後に名古屋のジャズクラブでライブした時にわざわざ見に来てくれて、それでセッションして。同年代のミュージシャンの友だちもいっぱいるけど、ジャズのミュージシャンってあまり知り合いがいなくて。そういうことに関係なく、普通に友だちとしてもいい雰囲気の人だなって思っていたから。ここ数年、イベントでも一緒になることが多くて、自分の曲やスタンダードナンバーを最後はセッションしようよ、みたいになるじゃないですか。その回数を重ねていくうちに、どちらともなく、アルバム作りたいねって話になって。名前も小沼ようすけと東田トモヒロっていうよりは、ふたりだけのユニット名にして。お互いサーフィンが大好きだし、サーフィンが想起されるような名前がいいなって思って、それでGLIDERSという名前に決めたんです。
–––– フタバフルーツがレーベルを立ち上げて、そこからリリースされるっていうことは当初から決まっていたのですか。
決まっていましたね。フタバフルーツから、ぜひアルバムを作って欲しいとラブコールを受けていました。
–––– それはGLIDERSとして?
ふたりで作って欲しいと言われていて。一緒にやっていると、ひとりで作っているのとはまったく違うんですよ。
–––– バンドとはまた違う?
客観的になれるし、ソロではなかなかやってこられなかった、例えばカバー曲をやってみようかっていう気持ちも起きてくる。自分のアルバムとなると、自分のオリジナルだけで作ってメッセージを発したいけど、ユニットだともうちょっと気楽な感じで、音楽を楽しむということに集中できるっていうか。作品を作らなきゃっていうよりも、音楽やセッションを楽しむ感覚のほうが強い。だから意外と気持ちとしては楽にやれる。気持ちを込めて作品と向き合うというよりも、その時にやれることを楽しもう、みたいな思いで作ったから。自分としてはこれも必要な感じですね。音楽との向き合い方という面でも。
–––– 東田さんはアルバムをコンスタントにリリースしている感があります。力が抜けたものをやりたいっていう思いが、心のどこかにあったのかもしれないですね。
やっていて楽しかったですよ。レコーディングはたった二日でした。それは最初に決めていたんです。ふたりで一緒になって、スタジオで二日でできることをアルバムにしようと。こんなアルバム、こんなメッセージの作品を作ろうっていうことじゃなくて、ふたりでやれることをやってみよう、と。それがアルバムになる。そういう作り方だったから。自分たちでもどんなものができるのかまったくわからなかったけど。
–––– オリジナルの曲は東田さんのもの?
自分が書いて、アレンジはようちゃんがやって。でもいいものができるっていう自信はあったんですよね。それは小沼ようすけと一緒だったから、間違いなくいい作品になるんだろうと。その感覚はライブにも似ていて。それってたぶん安心感なんだと思う。音楽の解釈の仕方や造詣の深さなども含めての彼の音楽に対する信頼。自分にないものをいっぱい持っているし。お互いのいいところをいい感じで出しあえるし、足りないところをいい具合にフォローしあえる。自分にとっては稀有な存在だよね。
–––– レコーディングとしては、今までの経験とは違うものになった?
ジャズの昔ながらのレコーディングスタイルに、自分としては則った感じなんですよ。例えばビル・エバンスやキース・ジャレットのアルバムを見ると、日付とスタジオの名前だけ書いてあって。その日付が一日だけだったり二日だけだったりするじゃないですか。ある意味、スタジオで録っているのだけどライブ盤みたいなもの。小沼ようすけとやるんだったら、そのスタイルでやりたいなって思ったから。ミックスもマスタリングも、俺はほとんど気にしていないですからね。自分のアルバムだったら細かいところまで気になってしまうけど、GLIDERSのアルバムはそういうことがほとんどなく。
–––– リリースツアーを目前に控え、どんなツアーになると思い描いていますか。
アルバムの曲ももちろんやるんだけど、その日の自分たちのできるベストなことをやろうと。一回やって、じゃあ今夜はこういうところを改善していこうよって、自分たちでGLIDERSを育てていくみたいな。リハーサルを何度もやって臨むというよりも、少しずつ改善点を見つけて、ふたつとないライブになればなって。どこの会場でも新しいことにチャレンジするし、曲順も変わるだろうし。ひとりだと、どうしても型にはまっていくんですよ。MCのタイミングはここでとか。
–––– 自分の中での流れやグルーブってできてしまうものだし。
せっかくふたりでやるんだから、生き生きとしたみずみずしいもの、センションの延長のようなライブにしたいなって思っていています。
–––– 1ヶ月半でおよそ20本のツアーです。
ふたりで移動しながらサーフィンも行って。基本はふたりで、3分の1くらいドラムの沼澤尚に入ってもらって3ピースでやります。沼澤さんは瞬間的にいろいろキャッチしてくれるから。クオリティは落とさずに、自分たちも何が起こるかわからないっていうところを楽しみながらやれたらなって。ツボはおさえつつも、ハプニングも楽しみながら。ツアーは自分の地元の熊本からはじめて、ようちゃんの出身地である秋田まで北上していって、車でのオンザロードの旅を終える。それから沖縄に飛んで、そして東京のファイナルへ。会場は自分がブッキングしたところが多いから、自分のこれまでの旅のなかに小沼ようすけを引き込んだ感じですね。ジャズ好きが集まるような場所は、意外に少なくて。次の作品を作るのならこんな感じにしようかっていうことも旅のなかではじまりそうだし。実は自分のソロの曲作りもはじめていて、そのなかでも小沼ようすけのギターをフィーチャーしたいなって思う曲も生まれてきていて、お互いの作品のクリエイティブなことを話しながら旅は続いていくのかもしれない。
–––– GLIDERSはいつ作らなきゃっていう感覚ではないのかもしれないですね。
やりたくなったときにやろうっていう。バンドじゃないし、ようちゃんと友だちでいる限りは2作目を作りたいって思うときが必ず来るだろうし。何よりもそれぞれのソロの活動をお互いに尊重しているから、無理しないで楽しむことが大切で。好きな仲間と旅をして、生まれたものを届けにいくっていう感覚。
–––– そんな音楽の広がり方も素敵だと思います。
自分がこんなふうに思える人間って珍しいんですけど、一緒にいるとホッとする人なんです。言葉はいらないっていうか。自分がようちゃんのかっこいいところを引き出せるなんて到底思っていないんだけど、ようちゃんのジャズの素晴らしさを、俺とやることで何かを引き出せたらなって。ふたりの音楽を愛してくれる人間が、ジャンルの壁を越えてひとつのことができるんだっていうことを伝えていきたいですね。
–––– 本来は、音楽にジャンルなんて必要ないものだし。
音楽ってすげえわくわくするものだし楽しいものだ。それを旅を通して伝えたいよね。
取材協力 = juzu
衣装協力 = GOWEST/GOHEMP、KEEN
3月2日@tsukimi(熊本)〜4月27日@eplus LIVING ROOM CAFE&DINING(東京・渋谷)
0コメント