ファミリーをメインターゲットにしながら「大人が遊べる音楽」をセレクトしているFUJI & SUN。他にはない独自のラインナップで強力な支持を集めているFRUE。方向性として全く逆のベクトルを向いているようなふたつの野外フェスではあるものの、奥底に潜んでいるカルチャーは、どこか通じるものがある。その共通項とは?
文 = 菊地崇
––– FUJI & SUNのTATSUさん、Festival de FRUEのANIさん。それぞれのフェスのオーガナイザーであるふたりの関係からお聞きします。
TATSU(T) ひと言で表現すれば同門。オーガニック・グルーヴで出会ったんです。僕は初期メンバーではなくて、2回目ぐらいからメンバーに入ったんですけど。アニは客として来ていて。
ANI(A) そう、最初は客のひとりでした。
T 2002年、日韓ワールドカップがあった年。サッカーにはまって、オーガニックグルーヴでチームを作ったんですよ。「チームを作るから、オーグルファンでサッカー好きの人募集」って声をかけたらアニが来たんです。
A チームのなかでタツさんが一番優しくて。他のみなさんは怖かったですから(笑)。
T ひとりずつ喋るといいヤツなんですけど、みんなで固まるとガラが悪いというか(笑)。サッカーは、毎週試合をやるくらいマジでやってたんですよね。オーグルの企画を考えるより、サッカーのフォーメンションを真剣に考えていた。
––– オーグルは何年から何年までやっていたんでしたっけ?
T 第1期と第2期があるんですよね。1期はIKO IKOが主体。フェスとしては2006年のTPC(True People's CELEBRATION)3回目で終わり。
A イベントは2007年のMMWまで。
T その後がコントラリードになって。それが2期。
A 確か2009年にオーグルが復活したんですよね。GARAGE A TROISを2010年に呼んで、CLUB D’ELF、MMW、THE SLIPと続いた。
T もちろん、その頃もオーガニックグルーヴという名前でのイベントではあったんだけど、個人的にはこの2期はコンセプトが少し変わって、また新たな雰囲気のオーグルでした。初期にあった洒落た生音でオールナイトで踊り明かすだけではなく、もっとメッセージ性が強くなりましたね。
––– ふたりはどうやってオーグルに関わるようになったのですか。
T 僕はスポンサー側だったですよ。ある商社に新卒で就職していて、「お前、音楽が好きだろう。うちの会社で変なイベントの協賛をしているから行ってこい」って言われて。そして行ったのがオーグルの新宿リキッドルームで開催されたTHE SLIPでした。それでフェスを立ち上げたいから、一緒にやらないかってオーグルサイドから個人的にオファーをもらって。それで商社も退社して。
––– そのフェスがTPC?
T そうです。2002年のTPC。構想から開催まで2年かかりましたけど。
A 僕は3回目のオーグルから欠かさずに行っている。それぞれが強烈だったから、記憶がメチャクチャ残っているんですね。「どういう人たちがこのイベントをやっているんだろう」って気になっていて、それでサッカーにも参加したんですね。当時、野外ではトランスパーティーが主流というか注目を集めていて。トランスに比べて、オーグルは洒落が効いていたんですよ。ちょっと意地悪なところもあって。
T 悪く言うとスノッブ的な。ちょっといい意味での上から目線。他のイベントや音楽関係者との横のつながりも持っていなかったですから。本当に勢いだけでやっていた。今、振り返ると若気の至り(笑)。
A ネットが、今ほど広がっていない時期じゃないですか。どうやってやっていたんだろうって不思議ですよ。
T 本当にピュアなバズだったと思う。噂が人から人へ広まっていった。ただオーグル~TPCが、あまり長続きしないんじゃないかってどこかで思っていたんですよ。それで何かしらオーグルに還元できたらいいなって思って、別の会社に就職したんです。その会社にアニも入って。
A その頃、働いていなかったんですね。愛・地球博で仕事があるからって誘われたんです。
––– その後、TATSUさんはフェスの制作などを手掛けるインフュージョンデザインを立ち上げ、ANIさんはFRUEをスタートさせた。FRUEの立ち上げはいつ?
A クラブイベントとしては2012年ですね。
T 僕から言わせてもらえれば、オーグル~TPCを進化させたのがFRUEなんですよね。
––– 2012年当時、クラブシーンは盛り上がっていた?
T ミニマルテクノ全盛期でしたね。
A 2011年の東日本大震災前にTHE SLIPがあって。それでオーグルが終わってしまった。「何もないな、じゃあなんかやろうよ」っていう軽いノリから始めたんですよ。バンドもやりたかったけど、お金がないからDJ系でいこうと。ラビリンスなどにも遊びに行ってたから、「こういう感じのダンスミュージックがみんな好きなんだ」ってなんとなくわかっていて。一番おもしろそうなヤツをピックアップしたんです。オーグルで耳と感性は鍛えられていたから、テクノだったらこういうのが受けるんじゃないかって思ってはじめたんです。とはいえ、そんな甘くなかったわけですが(笑)。
––– どのくらいのペースで開催していたのですか。
A 年に1回か2回ですね。代官山のUNITでやっていたからお金もかかっていたし。毎回赤字続きでした。ただ2回目からDJだけではなくバンドも呼んだんです。バンドを入れたら、やっぱりライブだなって思って。
T アニも僕も、根底にはライブバンドが好きだっていうのがあるから。FRUEは徐々にクラブイベントからライブイベントに移行していった。個人的には、ライブバンドに手を出して大丈夫かなって思ってました。それは結構最近まで続いていたけど(笑)。
––– クラブイベントだったFRUEがフェスへとたどり着いたのは?
A 2006年のTPCをがっつり手伝ったんですね。すごい赤字が出て、それがすごく悔しくて。でもこれを続けていけば、絶対にモノになるって思ったんですよ。
T そう思えたことがすごい(笑)
A FRUEも、収支だけを目的にしていたら、間違いなく続いていなかったと思います。他で働きながら、給料やボーナスを注ぎ込んでました(笑)。
T ある意味で、趣味なんですよね。バランスを取る必要がない。僕はどうしてもバランスを取ってしまう。仕事となってしまい、良くも悪くもイベントのプロフェッショナルとしての視点に立ってしまう。だから趣味で走れることを羨ましいと思っていましたよ。
––– TATSUさんは、いろんなフェスの現場に携わりながら、オーガナイザーとしてFUJI & SUNを2019年に立ち上げました。
T 自分の会社の立ち位置って、オーバーとアンダーの架け橋なんですよ。オーバーの象徴的な存在であるテレビ局とオルタナなカルチャーと融合させたフェスって誰もやってないよね、そこになら自分たちの役割があるんじゃないのかなって思って。
––– FUJI & SUNをどう捉えています?
A まず何より場所がいい。富士山が間近かで、息をしてるだけで気持ちいいです。たくさんフェス行ってますが、あんな場所はなかなかない。
T フェスのライトユーザーに向けて、奥の院への道を見せるっていうことがFUJI & SUNの役割だと思っているんですね。ここで新しいアーティストを知って、次にFRUEに行くとか。
A 例えば今年で言えば、クレイジーケンバンドや森山直太朗は、自分ではなかなか見に行かない。でもFUJI & SUNの中でなら、ちょっと見てみたいなっていう。そういうアーティストもちゃんと選んでいる。
T アーティストのみなさんにも、FUJI & SUNはちょっと違ったフェスだって思ってもらえているようです。アーティストもいろんな側面を持っていて、普段出していない面を出してもらえればって思っています。他のフェスよりリハを多くやってくれていたりという話も聞いていますから。
––– 7月に開催される今年のFruezinhoは?
A エチオピアのムラトゥ・アスタトゥケ、アルゼンチンのブエノスアイレス生まれのシンガーソングライター、フアナ・モリーナ、折坂悠太(band)、打楽器奏者・角銅真実とダンサー・小暮香帆の「波² 」が決まっています。
T ムラトゥはオーグル時代から呼びたいって名前が挙がっていたんですよね。オーグルでは難しくて、2013年にフジロックが呼んでくれた。
A 今回、何組か断られて、「そう言えばムラトゥがいるな」って思い出して、オファーしたら決まったんです。
T 逆から考えると、よくムラトゥに手を出すなっいう言い方もできるけど、今のFRUEなら成立させられるところまで来ているのかと思う。
A いい意味でチャンスなんだと思っているんです。フジロックではムラトゥはオレンジコートへの出演でした。オレンジコートが無くなってずいぶん経つじゃないですか。オレンジコートが好きだったっていう人は今もかなりいるし、そんな人にアピールすることができるんじゃないかって。
––– 今後のフェスってどうなっていくと思っています?
T 乱立しているじゃないですか。しかもどのフェスも出演するアーティストはあまり変わらない。その中でFRUEは突出している。ブレイク・ミルズに「世界一やばいフェス」と言われているほどですから。大か小の二択ではなく、オーバーとアンダーをつなぐという意味でも、中規模のフェスを持続させていかなきゃいけないって思っているんです。
A FRUEで言えば、どこまで狙うかですよね。例えばFRUEが5千人になったら雰囲気が変わると思うし。
T FRUEにはバランスを考えないでほしいですよ。5千人という数字になると、遊び感覚、趣味の延長線上というわけにはいかなくなってしまう可能性がある。自分たちで自分たちの遊び場を作る。その部分ではFRUEはこれから20年は続けてほしいですから。
A そこまでを考えると、すごいチャレンジですけど。
––– 最後にGW明けに迫っているFUJI & SUNの目標は?
T とにかく続けること。2019年にスタートして2020年からはコロナ。今年がターニングポイントだと思っています。
メジャーとアンダーグランドをクロスオーバーさせたバリエーション豊かなライブアクトと、オリジナリティあるアクティビティ企画が人気のキャンプインフェス。目の前にそびえる雄大な富士山を独り占めしたような贅沢なロケーションも魅力。
開催日:5月11日(土)~12日(日)
会場:富士山こどもの国(静岡県富士市)
出演:EYE、踊ってばかりの国、KID FRESINO(band set)、くくく(原田郁子&角銅真実)、 くるり、Fabiano do Nascimento × 石若駿、maya ongaku、民謡クルセイダーズ、ほか
毎年晩秋に開催される「FESTIVAL de FRUE」の都市型のスピンオフイベントとして2022年にスタートした「フルジーニョ」。今回来日するのは、2013年の「フジロック」以来の来日となるムラトゥ・アスタトゥケ。エチオピア・ジャズの至宝であり、ヴィヴラフォン奏者としても世界的な人気を誇っている。伝説と呼べる一夜になることは間違いない。
開催日:7月6日(土)
会場:立川ステージガーデン(東京都立川市)
出演:Mulatu Astatke、Juana Molina、折坂悠太(band)、波² 角銅真実×小暮香帆、ほか
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