【 MARTIN(OAU)】自分のルーツにある「トラディション」をバンドとして表現すること。

10代後半で来日してから、日本での暮らしのほうが長くなった。アコースティックにこだわりつつ、アコースティックの次にあるものを提案していく。その意志が聞こえてくる。


文 = 菊地 崇 text = Takashi Kikuchi
写真 = 須古 恵 photo = Meg Suko


––– 日本にはじめて来たのはいつだったのですか?

 20年以上前。19歳のときに来て、もう日本のほうが長くなっているよ。

––– BRAHMANのメンバーと知り合ったきっかけを教えてもらえませんか。

 バイオリンは小さな頃から弾いてた。最初はクラシックだったけど、同時にフィドルも習っていて。日本に来てしばらくして、Akeboshiっていうシンガー&ソングライターと知り合って、セッションしたりライブに参加するようになったのね。AkeboshiはBRAHMANとはまったく違う音楽なんだけど、対バンでライブしたことがあって。当時の俺はBRAHMANもTOSHI-LOWのことも、何も知らない。その日のライブも見てないしね。ライブが終わって、打ち上げのようになって。あまり日本語が話せなかったから、英語が話せるTOSHI-LOWとばかり話していたんだ。話の流れのなかで、バンドをやりたいんだって話をしつこくして(笑)。ツアーで忙しいから半年後にゆっくり話そうって言われたから、その言葉を信じて本当に半年後に連絡した。そのときに自分で作ったデモを持って行って聞いてもらったら、アコースティックの静かめの曲が一番響くって言われて。

––– TOSHI-LOWさんも、アコースティックをやりたいと思っていた時期だったということですか?

 BRAHMANと違うことをやりたいって思っていたんじゃないかな。そしたらたまたま俺がいた。そんなタイミングだったっていうこと。バンドとして続けることになったのは、その2年後くらい。

––– 失礼な質問になるかもしれませんが、OAUがこれだけ続くと思っていました?

 最初の頃は思わなかったね。メンバー6人のなかで、俺だけ国が違うし年齢も違う。みんなと仲良くなるにつれて、これは続くんだろうなって自然に思えてきた。BRAHMANの4人は、何かをはじめたらやめない人たち。成功するまで頑張るっていうタイプ。「ニューアコースティックキャンプ(NAC)」だってそうじゃん。1年目で終わっても不思議じゃなかったし、大雨の2年目で終わっても仕方がないっていう状況。3年目からは、会場を変えて頑張ってやり続けて、今ではファミリーで楽しむには日本一のフェスとさえ言われている。

––– 「NAC」が大きくなっていくカーブと同調するように、OAUも人気を集めていったように思います。

 OAUはジャンルで言えばフォークロック。でも日本には、フォークロックっていうシーンがないんだよね。じゃあ自分たちで作っていこう。どこが一番合うかって考えたときに、キャンプ、アウトドア、ナチュラルな人たちが一番好きになりそうだなって。

––– コロナ禍においても「NAC」は続けていました。

 2023年になってようやく、フェスやライブで多くのお客さんがマスクを外して大声で返してくれる。その声を聞いて、涙が出そうになったことがあったよ。お客さんが喜んでいる姿が俺らにとっては一番欲しいもの。その光景を見ると納得いくの。自分たちのやっているアートが認められているっていうことを実感できるっていうか。そこが気持ちいいんだよ。

––– 去年リリースされYA『Tradition』では、多くの曲をマーティンさんが手がけています。

 そう。子どもの頃に勉強していたアメリカのフォークロックとかブルーグラスとか、ヨーロッパのアイリッシュとか、東ヨーロッパのジプジーとか。そんなルーツにあるトラディショナルをアルバムにできたと思っていて。

––– OAUの過去の作品と『Tradition』では、何か違いはあったのですか。

 OAUの変わらないコンセプトは、フォークミュージックをポップスらしくアレンジして聞かせるっていうこと。それをみんなでずっと探したり挑戦したりしていたんだけど、OAUっていうバンド名になってから、ちょっと新しいフェイズに入っていけたんだよね。アルバム『OAU』からいろいろ変わった。自分たちの掲げたオリジナルのテーマに近づけたっていうのか。『Tradition』はさらに深くなっているよ。

––– マーティンにとって、フィドルはどんな存在なのですか?

 バイオリンとフィドル。楽器としては同じ。だけど出しているノリやグルーブは違う。バイオリンを教えていて、めっちゃ弾ける子がいるんだけど、「どうやってああいうノリを出せるんですか」って聞いてくる。いっぱい練習して、いっぱい聞いて。ノリが魂に入ってくるまでずっとインプットする。ノリやグルーブは楽譜に書かれていないんだよね。俺もきっと耳で弾いている。

––– 生まれ故郷であるアメリカでライブしたいと思っていますか。

 アメリカではないね。ヨーロッパには行きたいし、オーストラリアなどにも行ってみたい。アメリカは他の国に対してのポリシーなどを変えていかないと、俺にとっては興味のない国。自然はめちゃくちゃ綺麗だし、アメリカっていう場所は素晴らしいけど。

––– 今、持っている目標は?

 OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUNDっていう名前にしたことで、アコースティックっていうルールを自分たちで作った。ある部分ではそれを捨てたいなって。例えばコーキの持っているエフェクトをもっとうまく使うとか。『Tradition』のなかに「夢の続きを」っていう曲があるんだけど、この曲ではコーキがめちゃくちゃディレイを効かせている。アコースティックであるんだけど、アコースティックじゃないんだよ。この曲が次の窓口になっているはず。さらに新しいフォークミュージックを作っていきたいと思う。

OAU

BRAHMANのTOSHI-LOW、KOHKI、MAKOTO、RONZIの4人に、パーカッションのKAKUEIとボーカル&フィドルのMARTINが加わったOVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND。対バンでライブに出演したことをきっかけに、TOSHI-LOWとMARTINがアコースティックにこだわったバンドをイメージして2005年に結成。翌年にファーストアルバムを発表した。2010年に自分たちでオーガナイズするフェス「New Acoustic Camp」を始動。2019年にバンド名をOAUに変更した。コロナ時代を経て、2023年に5枚目のオリジナルアルバム『Tradition』をリリースした。2024年は「結いのおと」「ACO CHiLL CAMP」「FIGHT BACK」などへの出演が発表されている。


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