【インスペクター・クルーゾ(The Inspector Cluzo)インタビュー】農業をすること感じ取った「地平線」に込めた自由と希望。

2022年の朝霧JAM。ギターとドラムという最小編成のバンドで、ロック&ブルースを奏でてくれたインスペクター・クルーゾ(The Inspector Cluzo)。彼らはロッカーという顔を持つ一方、農家という二本のわらじを履いている。しかもその農法は、自家採種の手間と時間を要するものだ。ふたりにとっての、農業と音楽の関係性について聞いた。


文 = 菊地 崇
text = Takashi Kikuchi


–––– ファーマーでもあるとお聞きしたんですけれども、ファーマーとミュージシャンのどちらをはじめにやられたのですか?

ローラント 音楽活動のほうが古いよ。今はファーマーとしてが、自分たちの中では重要になっているかな。農業もやってミュージシャンもやって。9月にはコーンの収穫があり、10月には春に収穫する麦の麦蒔きがある。1月と2月は農作業がないので、ツアーでアメリカに行ったり。農業がメインではあるんだけど、それでも1年に100本はライブをやっているよ。だから常に働いている感覚。ノーバケーションだよ(笑)。


–––– なぜファーマーを始めたのでしょうか。

ローラント 祖父も祖母もファーマーで、農園で育ったんだ。ミュージシャンとしての最初のツアーで中国に行って、スモッグなどの公害をリアルに体験して、ある種のショックを受けたんだよ。2012年のことさ。人間にとって農業こそ必要なことだと感じて、フランスに戻ってから農業のことを教えてもらったんだ。


–––– 今はどういう野菜を作っているのですか。

ローラント 育てた野菜で種を採って、それをまた植えて育てているんだ。種を他から買ったりはしない。

–––– 自家採種して野菜を育てている農家さんは、フランスでは多いのですか。

ローラント 少ないよ。市場に流れるものとしたら、ほとんどないに等しい。古い品種の野菜がどんどんなくなってしまっている。アヒルなども同じで、古いものを守るために自分たちで飼っているんだ。動物も飼って、いろんな野菜を育てて、しかも自分たちの種で育てるっていう農家は、フランスでも極めて少ないんだ。今の現代的な農家は、ひとつの農家でひとつの野菜しか作らない。多くても2種類とか3種類。動物を一緒に飼うっていうこともない。ケミカルな農薬を使って、その1種類や2種類の野菜を大量に作る。効率ばかりを求める。そういった農家ばかりさ。自分たちのようなスタイルだと、ほとんど一年中、何らかの農作業をやることになる。一年の自然のサイクルに、作る野菜も合わせていく。昔はフランスのどの農家でもこのスタイルでやっていたんだけど、今は変わってしまった。


––––  育てているのは、もちろん無農薬の野菜ですよね。

ローラント もちろん。種も採るわけだからね。そうそう、日本の福岡正信さんの本を読んで勉強をしているよ。


–––– 音楽はいつスタートなさったのですか。

マシュー ローラントとは高校で出会ったんだ。それからずっと一緒にやっている。もう30年になるね。


–––– 最初はどんな音楽をふたりでやられていたのですか。

マシュー 高校で出会った時に、俺はドラムでローラントはギターをやっていたんだ。ふたりともロックンロールが好きで、ブルーズも好き。ジャズ、ソウルも好き。好きな音楽っていろいろあって、結局はみんな「音楽」なんだよ。ジャンルじゃない。


–––– インスペクター・クルーゾはずっとふたりで?

ローラント バンドとしてはふたりだけど、ライブの時はいろんなメンバーでやっているよ。フランスでアコースティックツアーをやる時にはアディショナルプレイヤーとしてストリングスとしてバイオリンやチェロを呼んだり。前に朝霧JAMに出演した時にはサックスなどのホーンが入ってもらったし。

–––– 今回、朝霧JAMでライブしてどんな印象を持ちましたか。

ローラント ステージの前にも人がいっぱいいて、ライブしていてうれしかったね。6年ぶりの来日だったからちょっと心配だったけどね。


–––– 最後にニールヤングのカバー「Hey Hey My My 」をうやりましたね。

ローラント 2020年に、新作のアルバムのプロデューサーでもあるヴァンス・パウエルと一緒にレコーディングしたんだ。その時にニール・ヤングの曲をカバーして。そのレコーディングはアルバムには収録せずに、7インチのシングルで出した。ライブの最後にその曲を持ってきたのは、単純にこの曲が大好きだからさ。朝霧JAMでは新作『ホライズン』に収録されたナンバーを多く演奏したんだ。


–––– 『ホライズン(地平線)』というタイトルに込めた思いは?

ローラント フランス南西部のガスコーニュっていう場所がホームタウンなんだ。もともと小さな町で、今は100人くらいしか暮らしていない。この町では地平線が見えるんだよ。ガスコーニュの人たちからすれば、地平線が見えることがアイデンティティなんだ。レコーディングしたナッシュビルもそうだった。地平線には国境もない。地平線を見るっていうことが自由の象徴なんだ。『ホライズン(地平線)』というタイトルの中に、自由とか希望を込めたんだ。太陽の下で地平線を見ている。地平線が見える大地に生きている。アメリカの中南部でも南米のパタゴニアでもフランスでも、そして日本でも。きっと同じように地球の上で生きている人たちがいる。そんな人たちのコミュニティみたいなものを、このアルバムでは表現したかったんだ。


–––– 農業をやっていることで生まれた視線かもしれないですね。そのメッセージを、ずっと発信し続けてください。

ローラント もちろん。それが未来の子供たちのためでもあるのだから。


The Inspector Cluzo

フランス・ガスコーニュ地方を拠点とするロック・ブルースデュオ。Laurent (Guitar&Lead Vocal)とMathieu(Drums)によって結成。2008年以来、バンドは自主運営レーベルから8枚のアルバムをリリース。これまでに世界67カ国で1200回以上のライブを行い、フジロック、Lollapalooza、Downloadなどの世界各地のフェスティバルにも出演を果たしている。9枚目のアルバム『Horizon』を2023年1月にリリースした。主な活動は農業であり、15ヘクタールの農園を経営し、小麦やトウモロコシなどを自家採種で育てている。


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