【GOMAインタビュー】高次脳機能障害から新たなフェーズへ。

2009年11月に、突然の事故によって高次脳機能障害になってしまい、記憶の一部を失ってしまったGOMA。事故から8年という時間が過ぎ、GOMA&The Jungle Rhythm Sectionとして新作アルバムをリリースした。今もまだ事故前の脳や身体には戻っていない。GOMAにとってこの8年は再生への歩みだったのだろう。そしてアルバムによってGOMAのなかで何かが生まれようとしているのかもしれない。今年はGOMAにとって活動20周年のメモリアルイヤーでもある。新たな一歩が刻まれようとしている。


文=菊地 崇 text = Takashi Kikuchi
写真=須古 恵 photo = Meg Suko



9年ぶりにリリースされた新作アルバム。

–––– 12月には新宿高島屋で『GOMA個展~再生~』が2週間にわたって開催されました。毎日のように在廊していたそうですが、最近の体調はどうですか?

GOMA 倒れるときは倒れるという感じで、大きいのが来たときは救急車で運ばれることもあります。いつそれが来るのか自分ではわからない。そこに焦点をあてていると不安ばっかりになってしまう。だからそのことは自分のなかで振り切ったんです。

–––– 振り切った感覚になれたのはいつだったのですか。

GOMA 倒れてるときのことは自分では全然覚えてないから、未だによくわからない。後から「倒れていた」って聞いて。身体の動きが遅かったり、喋るのが遅かったり、そういうことがあるから、なんとなく最近はわかるようになってきたけど。でも、いつから吹っ切れたのかっていうのは明確には覚えてない。8年間のなかで徐々にですね。

–––– GOMA&The Jungle Rhythm Sectionの新作アルバムが2月14日にリリースされました。そして今年はGOMAとしての活動の20周年のメモリアルイヤーです。

GOMA 今年20周年の節目ではあるんですけど、別にそこを目標に作っていたわけではないんですよ。事故後、最初はまったく音楽ができなくて、でも、その感覚が徐々に蘇ってきて、ステージにも立てるようになった。その次のひとつの目標として、新曲を作って出したいっていうことがあったんです。後遺症とかもあったから、なかなか曲が身体のなかに定着しなかった。古い曲からひとつひとつ掘り出していって。古い曲は身体に記憶が残っているから覚えやすいんです。

–––– 音の記憶が身体に残っているというのはすごいことですよね。

GOMA 例えばお箸の使い方とかも同じだと思うんです。西洋の人にはうまく使えなかったとしても、僕たちアジア人は小さな頃から使っているから、小さな豆だとしても頭で考えることをしなくともつかめることができますよね。

–––– 確かにすべての行動が頭で考えて身体を使っているわけではない。

GOMA 医学用語では手続き記憶と言うらしいですね。

–––– The Jungle Rhythm Sectionとの演奏は、息を吸っているのと近い感覚なのですか。

GOMA 呼吸をするのに近いっていうのではなくて、スイッチがあるんですね。そのスイッチの入れ方が最初はわからなかったのですけど、最近はだいぶわかるようになってきたんです。

–––– そのスイッチとはどういうものなのですか。

GOMA 身体が自動演奏をはじめるスイッチ。それがどういうものかっていうと、あまりうまく説明できないんですけど。脳のエネルギーをそこだけに一点集中させてあげると回り出すんです。最近ではライブをするときには目を瞑り、視覚的な情報を脳に処理させないようにしています。人間は視覚的にものを見ると、言葉の持つ意味だったり、絵の色彩だったり、いろんなことを瞬時に解析しようと動いてしまう。でも僕は、神経がうまいこと繋がっていないところがあるから、ライブに必要のない感覚のところを完全に閉じて、残された脳の神経を全部音楽に集中させてあげる。そのことによってそこの部分の脳のスペックが上がる。

–––– それは訓練することによって可能になったのですか。

GOMA 訓練もあるし、自らそういったことに気づいていったっていう部分もあります。高次脳機能障害になると、ふたつのことを同時にやることが難しいというのは、リハリビの先生からずっと聞いていたんですけど、いまいちよくわからなかったんですね。最初は文字を見ても、読めているけれど理解できないということがよくあったんです。

–––– 文字が文字という意味ではなく形として見えていたんですね。

GOMA そう、絵みたいに。神経が切れてる状態でそこを処理しようとすると、回りの脳が持っているスペックをそこに集約しないといけないから、他のことが回らなくなる。音楽をやるときに必要な感覚が他のことに気を取られてしまうと、構成が飛んでしまったり、何をやってるかわからなくなってしまったり。あるときそのことに気がついて、脳に音楽以外のことを処理させなければいいんだと思ったんですね。それで目を閉じて吹いてみたら、意外にこの方法はいけるかもってなって。

–––– 他のメンバーの演奏は聴いているんですよね?

GOMA 聴いてはいます。目は閉じているんだけど違う形で見えているっていうか。今までになかった感覚だと思います。

–––– 事故の後にThe Jungle Rhythm Sectionと音を鳴らしはじめた頃と今とでは、演奏しているときの感覚は変わってきているのですか。

GOMA たぶん変わってはいると思う。ちょうど事故前の感覚と事故後の感覚とで、プラスマイナスゼロに近い感覚になってきています。一時はずっと事故前の感覚を追いかけていた。事故前に自分ができてたことをまたちゃんとできるようになりたいとか、事故前に行っていた場所とか、事故前に会っていた人のこととか、もう一度知りたい、覚えたい、覚え直さなきゃって。そういう感覚があったんですね。でも、昨夏アメリカから戻ってきてからそういったことはどうでもよくなってきた。それよりも、新しい形で今生きてる姿を見てもらった方がいいんじゃないかって。

–––– The Jungle Rhythm SectionのメンバーはGOMAさんにとってどういう存在なのでしょうか。

GOMA 一緒に音楽をするための家族みたいなもの。事故前に出していた音もわかってくれている仲間。

–––– 事故前に演奏していた音を聴くこともあるのですか。

GOMA それをずっと聴いて練習してきて、またみんなでスタジオでできるようになったから。

–––– 前の自分の音を聴いて、それを吹くことからスタートしていたのですね。

GOMA そう。いいリハビリにもなったと思います。ずっと事故前の自分を追いかけていたし、事故前の自分を超えなきゃいけないっていう思いも強かった。事故前に作りかけてた曲があるっていうこともわかって、自分の思いがそこで頓挫してるのが悔しかった。事故の直後はメンバーにもこういう曲をやっていたって教えてもらって。そのときの自分がどういう思いでその曲を作っていたのか、今では思い出せないですけど、その思いを繋げてリリースできたことを本当にうれしく思っています。8年9年という時間がかかってしまったけれど、少しずつ積み重ねてきたことが新しいアルバムのリリースに繋がっているんです。

–––– ひとつひとつを積み上げることで、The Jungle Rhythm Sectionとして新作になるという感覚が生まれてきたのですね。

GOMA 長い間、新作のアルバムを出せるなんて思ってもいなかったし、新しい曲を作ることさえ難しいと思っていました。ここ2~3年で脳が進化してきていて、今までやってきたことが形にできるようになってきていて。イメージの定着が今までと違うところでできるようになってきたんだと思う。それが演奏にも反映できるようになってきています。

–––– 事故前にインタビューした際に、The Jungle Rhythm Sectionとはタイミングがすごく合うという話をしていたんです。自分が動き出そうとしたときにピッタリはまると。

GOMA 会わなくなっている人は全然会わなくなっているし、音沙汰ない人は音沙汰もないし、今でもこうして繋がっている人は繋がっている。何か同じベクトルを持って人間として生きてるから、また縁があって繋がることができる。僕は自分からたくさんの人にコンタクト取って会うということをしなくなってきました。あまりたくさんのことは覚えられないし、自分のライフスタイルをできるだけシンプルにしたいと思っているから。シンプルに、丁寧に、ひとつひとつをちゃんと一緒に作って形にする。その思いをThe Jungle Rhythm Sectionのメンバーは今も汲み取ってくれているんだろうし、だからこそずっと繋がっていけるんじゃないかなって思います。


光に導かれた絵。

–––– 音楽とともに絵もGOMAさんを支えているものですよね。

GOMA 大きな存在です。リハビリにもなっているし、事故後の8年という時間のなかで、脳の進化を助けてくれたもののひとつだと思います。絵を描くことで音楽にも繋がっていったのは確かですから。

–––– GOMAさんの絵からは光が感じられます。

GOMA 自分の意識ないときに感じている世界のモチーフがすごく大きいんですね。意識が戻るときに毎回見る世界があるんです。その光の世界にいて、ぼーっとしているうちに手の先や足の先から痺れてくる。痺れるところからはじまってだんだん身体の感覚が戻ってくる。たぶん血流とかも関係あるのかもしれない。神経の感覚が戻ってきて、意識がだんだん身体のなかに入ってくる。それできっちり意識が入ったら、ようやく身体が動かせるようになるんですね。意識のないときの世界ってすごい作用があると思う。その間に脳に対してすごい刺激があるんじゃないかと。

–––– 絵を描いているときと音を鳴らしているときは、感覚は違うものなのですか。

GOMA 最近は近づいてきたと思います。僕の描き方だと、絵を乾かす時間が必要で、その乾かす時間にディジュを吹いて、乾いたなと思ったらまた描いて、吹いて、描いて、吹いて、描いて。その繰り返しです。ちょうどいいバランス。

–––– 新宿高島屋で開催された個展では火の鳥をテーマにしていました。今までの自分のなかから溢れ出てくるものと与えられたものを融合させた作品でした。

GOMA 描いていても違和感はなかったですね。自分が見ている光のなかに火の鳥が舞うっていうイメージが浮かんできていて。与えられたテーマで描くこともできるんだなってことがわかりました。

–––– かつては間が許せば絵を描いていると言っていましたが、今でもそうなのですか。

GOMA とにかく画像みたいなものがいっぱい出てくるんですよ。それが自分が意識をなくしてしまったときの感覚とどんどんシンクロしてきていて、バアーッと絵に描いていかないと、こっちがパンパンになっちゃってしまう。

–––– 絵を描いているときは、何かを吐き出しているという感じなのですか。

GOMA そう。光が見えているときじゃないと描けないんですよ。光が次々と出てくる。だから描き出していってあげないとおかしなことになってしまう。エネルギーが飽和しちゃうというか。うまく言えないんですけど。

–––– 医学の進歩は目覚ましく、脳に対しての研究もすごく進んでいるんでしょうね。

GOMA ほんの20年くらい前までは、脳は再生しないって言われていたんです。でも最近は医療科学の発展もあって、何が原因かわかるようになってきた。頑張ったら、脳のシナプスがグイグイ伸びてくこともわかってきています。

–––– 諦めないで、自分でも脳の進化を意識することも大切なんでしょうね。

GOMA 脳のシナプス自体は、病気とかじゃない限り伸ばすことができるんです。それをきっちり続けて、失った感覚のところを他の感覚でカバーできるようにしたい。僕自身もまだ理解に苦しむことも多い。もともとは高次脳機能障害では再生しないぞって言われていて。でも何か違うぞっていう直感みたいなのが生まれて、残された能力と直感を信じてやってきたらちょっとずつ繋がってきた。たぶん脳が次のフェーズに入ってきてると思います。


自分の生き方を見せる決意。

–––– 今年はライブなどで全都道府県をめぐるそうですね。

GOMA 特に事故の後でできていないことってなんだろうって考えたんですね。それであちこちに行きたいなって。前の自分が行ってたところも、行ってなかったところも含めて。

–––– 前はディジュリドゥを担いでひとりで旅していましたから。

GOMA 前はフラッと旅していたから。これまでなかなか行けなかった理由に、正直に言えば身体の不安もあったんです。今は自分でひとつの壁を超えられたかなって思えるようになった。体調の管理はしっかり意識しないとダメですけど、旅ができる準備が整ってきたんです。昔に会ってた人をちゃんと思い出したいとか覚えたいとか、そういう思いがすごくあったんですね。相手側の気持ちに立ったら、悲しい思いするだろうなと思って、忘れたら申し訳ないとかっていう気持ちがあって、なかなか外に出て行けなかったんです。でも悩むところ、エネルギー使うところがそこじゃないなと思っています。それよりも今を頑張って生きてる自分を見てもらい、新しいエネルギーや元気を送ることが大切かなって。

–––– 絵にしろ音にしろ、GOMAさんの生き方から多くの人が元気や勇気をもらっています。

GOMA こちらこそありがたいことです。それを自分がやらなきゃっていう思いを、最近ではちょっと自覚しています。日本中に同じような症状と闘ってる人が40万人50万人もいるって聞かされてから、そんなことを思うようになって。少し気負い過ぎていたこともあるんですけど。

–––– そんなにいるんですね。

GOMA どんどん膨れ上がってきるんです。交通事故はなくならないけど、医療は発達してきているから。後遺症を抱えながら生きてる人が多い。それと高齢化による脳の問題も一緒なんですね。脳の障害で闘ってる人はすごい人数になっています。高次脳機能障害は社会復帰が難しいということが社会的に言われているけれど、何かしらそこから抜け出す方法はあると思う。実際そこから抜け出た人の言葉って、僕が真っ只中で闘ってたときにもすごく大きな存在になったんですね。ミュージシャンで高次脳機能障害になってもまた最前で活躍している人のドキュメンタリーを見て希望を持てたし。僕もこの世界から抜け出せるかもしれないって。だから自分の活動を通して社会的なメッセージを発信していきたい。自分の活動を続けることで、自然とそういったメッセージになっていくと思うんです。そのために今年は、頑張って47都道府県を周りたいなって思ったんです。日本全国に闘っている人はたくさんいる。僕は、たまたま自分の症状に合うドクターとリハビリの先生に繋がれたから良かった。もちろん自分の頑張りは大前提にはあるけど、自分の力になってくれる人に出会えるか出会えないかもかなり大きいですから。僕はそういうメッセージを、音楽やアートを通して社会に出していきたい。

–––– GOMAさんは選ばれた人なのかもしれないですね。

GOMA 自分の人生、いろんなことがありすぎて。なんでなの?っていうくらいに次から次へと。思い描いていた未来予想図からは、相当かけ離れていってるなって思います。単純に音楽をして、あちこち旅して、それくらいしか考えてなかったですけどね。今では次の世界、次の世界と舞い込んでくる。しかも今まで聞いたことのなかった世界が降ってくるから。

–––– 変な質問かもしれませんが、GOMAさんは年齢を重ねたことを感じることはありますか?

GOMA あまりないですよ。身体がしんどいってことはもちろんありますけど。事故をしてから逆に若返ったって言われることも多いですね。

–––– そんな感じがしていました。

GOMA いろいろと起こりすぎてるからかな。何がいいとか悪いとかっていう物差しで、まったく考えなくなってきたかも。そういう判断でものごとを考えるというより、この能力をいかに人類に活かせられるのかっていうことが芯にあるのかもしれないですね。

–––– 事故の後は悩んだりしたことが多かったと思います。けれどその悩みの先に今があり未来がある。その姿勢からこちらは多くの希望をもらっています。

GOMA 頑張りますよ。生きてる限りは何が起こっても受け入れて進むしかないですからね。淡々と、着実に、地に足つけて一歩一歩です。毎日やりきったって思いたいんです。事故によって明日っていう日が必ずしも保証されたものではないというのをすごく学んだんですね。疲れて身体が動かないときは休まないといけないけど、後悔がないようにとは思っています。

GOMA&The Jungle Rhythm Section『STARTING OVER』
2018年2月14日 on sale ! / 2,500円(税別) / JUNGLE MUSIC


GOMA20周年ツアー「STARTING OVER」

2/17(土):茨城 御料理屋kokyu【映画,ライブ】

2/18(日):宮城 SHAFT【映画,ライブ】

2/23(金):福岡 UNION SODA【映画,ライブ】

2/24(土):熊本 DENKIKAN【映画,ライブ】

2/28(水):大阪 メセナひらかた【講演会】

3/3(土):新潟 豪雪JAM '18【GJRS】

3/17(土):長野 SNOW MONKEY BEER LIVE '18【GOMA+AFRA】

3/21(水) : 東京 宮益坂十間スタジオ【ヒーリングチャンネル】

3/23(金):兵庫 淡路文化会館 講堂【講演会】

3/25(日):滋賀 やまなみ工房【映画,ライブ,絵画展示】

3/31(土):東京 WALL&WALL【GOMA+U-zhaan】

4/1(日):大阪 名村造船所跡地【GOMA+U-zhaan】

4/4(水) ~ 4/9(月):大阪 PINE BROOKLYN【絵画展示】

4/7(土):防府 印度洋【GOMA+中村達也】

4/8(日):宇部 西法寺【GOMA+中村達也】

4/14(土):愛媛 コスモシアター【映画,ライブ】

4/15(日):高知 Kinema M【映画,ライブ】

4/28(土):山梨 アメリカヤ【映画,ライブ】

5/4(金):東京 MDT FESTIVAL '18 @日比谷野音【GJRS】

5/12(土):山梨 MAMMOTH HELLO CAMP '18【GOMA+U-zhaan】

5/13(日):東京 TBA【GJRS】

6/17(日):青森 PENT HOUSE【映画,ライブ】

8/11(土) ~ 8/19(日):静岡 市民文化会館展示ホール【絵画展示】

and more…詳しいツアー情報はオフィシャルHPにて順次更新中

ETV特集「Reborn~再生を描く~」
2/17(土) 午後11時00分~ 午前0時00分
自分の身にいったい何が起こったのか。これからどう生きていけばいいのか。脳損傷をきっかけに絵の才能が開花し戸惑うディジュリドゥ奏者・画家GOMA、再生の日々を描くドキュメンタリー。

0コメント

  • 1000 / 1000