都市から離れたことで得た進化。【三宅洋平】

福島原発事故の後に向かった沖縄。そして参議院選挙を経て落ち着いた岡山の里山。地球の時間で暮らす日々のなかで生まれてきた音楽の所在。「人間の在り方」を問い続けている。

文・写真 =菊地 崇
text・photo = Takashi Kikuchi


都市から自然へ。

ー 岡山での暮らしは何年目になるのですか?

洋平 2016年の冬だったから6年目になるのかな。


ー 2016年夏は2度目の参議院選挙でしたよね。

洋平 選挙が終わって、半年ぐらい東京にいて。衆議院の解散が近いと言われていて、その選挙にも出るつもりだった。けれどなかなか解散がない。スタッフも子持ちが多かったので、選挙に向けてのチームはバラしてお国帰りさせてくれって、(山本)太郎くんに話した。衆議院選挙に向けての待機は降りる、と。東日本大震災後に沖縄で暮らしていたところもけっこう田舎で、日本に帰ってくるんだったら、山暮らし、古民家リノベートみたいなのがいいなと思っていた。2回目の選挙のことが溜まってたんだろうね。都市にいたくないっていう欲求も出てきた。岡山にしたのは、両親の出身地でもあるということと、三宅商店ごと任せられる陣容が岡山にしかいなかったということ。近所の人に「ここは古くは平家の落ち武者の村じゃ」って言われたときに、「僕も落ち武者です」って言えた(笑)。英気を養うにはいい場所かなって思ったね。


ー 選挙の後遺症は、やはり大きかったのですか?

洋平 変な話、死んでもいいや、殺されてもいいやって思っていた。選挙が終わって、それまでに味わったことのないレベルの、様々な賛否両論を浴びた。連日の選挙演説で壊した喉の調子が回復せずに思うように歌うこともできなくなった。治療にも行ったんだけど、なんか「まだ死ねないな」っていう思いが浮かび上がってきて。自分の人生に後悔しないためには犬式をまたやりたいって素直に思った。

犬式という存在。

ー 4人で再び音を出して、休止前と感覚は変わっていた?

洋平 8年くらいブランクがあったわけだからね。2度の選挙で、音楽と本気で向き合うっていうことから5〜6年は離れていた。自分とみんなの距離が、ミュージシャン・スキル的というかミュージシャン・フィジカル的っていうか、すごい離れちゃってて。自分が乗り切れていないのがわかる。みんなと合致していない感じはあって、ライブを続けてはいたけど、新しい曲ができるのを含めて、みんなは2年ぐらい辛抱強く待ってくれたんじゃないかな。


ー 月に1回程度は集まってスタジオに入っていましたよね?

洋平 月に1回か2ヶ月に1回。自分たちが若かった吉祥寺時代は週に3回入っていて、それがあってやれてたことだから。月に1回のスタジオでは、ジャムをしてもジャムりきれないもどかしい感じが、自分のなかでは不完全燃焼として残ってしまっていて。声の回復も含めて「調子が出てきた、さあ動こう」と思えたのが、コロナになったぐらい。いきなりライブがやれなくなって、ライブではなくレコーディングにシフトを変えた。


ー そして生まれたのが『動物宣言』だったのですね。

洋平 曲によっては、ずいぶん前から作っていたものもあって。でも納得がいかない。2年ぐらいこねくり回して。その結果、はじめにできていた曲と一字一句変わっていない。ぐるっと回って戻ってきた。できていたっていうことを認めるのに2年かかったということ。


ー それは自分の声の調子にもよってのこと?

洋平 喉が鳴り切っていないから、どうやっても納得できない自分がいただけ。今から振り返って考えると、選挙に出たことによって自己肯定感が持てなくなっていたのかもしれない。有り体に言えばうつ状態っていうか。もともと、そんなに人間社会を愛せていない。人間最高って思えていない自分がいて、どちらかというと動物目線で、自分も含めて人間は滅びたほうがいいんじゃないかとさえ思っていた人間だからね。そんな人間が一念発起して選挙に出て、みんなのために動こうと思っていたにも関わらず、支持者に叩かれたり、裏切られたり。変性意識が強くなりすぎて、今いるこの現実世界、主に人間に向けて何かを発するっていう気持ちがわいてこない。一方で音楽をちゃんとやれていないと何をやっても満足できない自分も抱えている。


ー そんな葛藤のなかから、どうやって抜け出せたのですか。

洋平 仲間たちの存在。ここに来てくれて「曲を作ろう」って言い続けてくれた奴もいる。旺盛にライブを続けている奴らもいる。それらに刺激を受けて、なんとか気持ちが切れずに復活できたんだと思う。〈無人島フェス〉を主催したローホーにはかなり煽られているよ(笑)。


ー 音楽のチカラが内なるエネルギーを呼び起こしてくれた。

洋平 インディペンデント・ミュージシャンなんだけど、選挙を通してメジャーで一発当てたアーティストくらい有名になっちゃった。「音楽なんてやめて政治に集中しろ」という人と「選挙には出て欲しくない。犬式の三宅の音楽を聞きたい」という人。そこには乖離があって、その乖離は自分のなかにもあったから。犬式のようなフィジカルな音楽は、もうやり切ったという感覚を持ったこともあったし、未来のために政治家になったほうがいいんじゃないかって思うこともあった。でも政治的なことで評価されても、全然うれしくない自分もいた。「CD買いました」というたったひとりの声のほうがよっぽどうれしい。だから、自分が納得するように動くしかないと思ったしね。なんとなく納得いく演奏ができるようになったのは、去年10月に開催された〈水と木の祭〉から。


ー ライブからレコーディングにシフトしていくことで、アルバムという形も想定していった?

洋平 録ろうとなったのはコロナ禍になった2020年春頃。その前にはデモテープを作ろうと思っただけで、アルバムとして出す腹づもりはなかったのかもしれない。新人バンドのつもりで、今の自分らはこんなもんですと表現する。5曲で40分弱という時間は、昔のロックアルバムがそうだったように、12インチレコードの表裏に収まる時間。かなり時間がかかってやっと生み出せた5曲だったから、捨て曲なしで、全部大事に聞いてもらいたいと思って。


ー 2022年にリリースしたということにも意味があるのではないですか。

洋平 実は21年に初夏にはレコーディングは終わっていた。楽曲の許諾とミックスに時間がかかってしまっただけ。リリースが遅れて変わったことっていうのは、ウクライナ問題が起きた前か後かっていうこと。そういう意味では、自分のなかでは今だったのかなという感覚もある。


ー アルバムとして吐き出せたことで新たな創作意欲が出てきているのでは?

洋平 今は歌いたいという気持ちが強い。曲のアイデアもいろいろ出てきている。次のアルバムもけっこう見えているし、犬式初の同一年内に2枚の作品を出すっていうこともやってみたい。まだレコーディングに入っていないけど、超急げばできちゃうかもっていう感覚はあって。もちろん急ぐ気持ちはないけどね(笑)。自分のハイトーンで歌うスタイルって、40代が勝負だなって思っていて。


ー 50代では難しいということ?

洋平 わからない。できるかもしれないし、できないかもしれない。無限に未来があるとどこかで思っていた20歳前後より、よっぽど今のほうがヒリヒリしているよ。死生観も含めて、終わりが見えているほうが、今が濃くなるというか。

自然と文明の境界線で生きる。

ー 『動物宣言』に込められたメッセージは大きいと思う。

洋平 人間文明が地球で問題を起こしている根源は、自然や宇宙を感受する「感受性」を失ってしまったことだと思う。それって選挙では変えられない部分なんだよね。「動物宣言」は、お経を書くようなつもりで書いた。「『動物宣言』の歌詞は聞き取りにくい」と言われることもあるけど、俺としては「般若心経は1回では聞き取れないでしょ」って。何回も何回も聞いているうちに聞こえてくるもの。音魂と化して、念仏化して、スピリチュアルな働きかけも必要だなって。選挙って物質的な世界で、スピリチュアルなことは相当抑え込まないと信用されない。曲が書けなくなった要因のひとつは、そこにもあったかもしれない。物質的な世界でちゃんとしなきゃいけないっていう思いでずっといたから、チャクラの開き方がわからなくなっちゃった。


ー 内なる言葉が出てこないということ?

洋平 歌詞を書きまくって、それを全部消す。自己肯定感がないから、何を書いてもダメなんだよね。


ー 自分を俯瞰して見られなくなった?

洋平 むしろ逆じゃないかな。俯瞰し過ぎちゃって、ノイズ全部なしに没頭した自分を晒せなくなってしまった。人にどう思われたっていいやっていう珍獣としての自分が出せなくなった。野性味を出せなくなったというか。でも犬式は、犬式の三宅はそこが肝で。でもコロナで社会が停止したら、なんかどうでもよくなったんだよね。社会の目を気にしなくなった。コロナは俺にとってはグレイトリセットになったのかもしれない(笑)。


ー 社会全体が止まったことによって次にどうするのか。

洋平 活かし方次第では、文明がいい方向に転換するチャンスにもなり得たなって。また元に戻ってしまったけど。


ー 福島原発事故にしろ、元に戻ろうというチカラは根強い。

洋平 政治を変える前に、生活を改めるっていうことがマストだから。


ー 今の時代にこそ、犬式の音楽、犬式のライブは意味を持っていると思う。

洋平 音楽シーンも二分化されているよね。俺はアンダーグラウンドとかインディペンデントにうごめくリアリティとか熱狂とか、簡単なことでは離れないファミリーのようなこの文化を諦めたくない。60年代〜70年代のアメリカで起きたようなことを起こしたいなって相変わらず思っているけどね。


ー 体験することによって、自分という存在を感じること。

洋平 仮想現実がこれだけテクノロジー的に現実味を帯びて実装されはじめてくると、VRを付けていたとしても、これが現実じゃない保証はない。そうすると色即是空・空即是色のような、全てが空ですよみたいな教えが、実感を帯びて感じられるようになる。結局、夢なのか現実なのかよくわからない。これが宇宙におけるマテリアルな現実に他ならない。大事なのは自分の認知で、自分をどう捉えるか。最近はアーヴィン・ラズロっていう宇宙学者の本に刺激を受けているんだけど、ラズロは「もっとも離れた細胞同士が、お互いに何が起きているかを把握していて、的確なリアクションを起こしている」と言っている。その速度は光の数億倍とも。そう考えると、宇宙っていうひとつの生命体は、我々人間も含めてつながっている。かつては一握りの悟った人しか体感できなかったことが、テクノロジーが進んだことによって知織化され誰もがわかることができるようになる。超AI監視社会が来ても、根本的に変えられる思想的チャンスはあるなって思う。


ー 歌に託しているもの、あるいは与えられた自分の使命を感じることはある?

洋平 ウクライナだロシアだって、まだ人間同士の話をしてんのかって思う。自然と文明のエッジに暮らして、自然と文明の間の細胞膜のような人間が減り過ぎて、それによって人間の境界がどんどん侵略されている現状を守らなきゃって思う。太郎くんのように、システムのなかでシステムを変えようとする人も大事なんだけど、俺は短絡的にハートに訴えかけて、世界観が変わっちゃって生き方が変わってしまったという人を増やしたいなっていうのが主眼かな。


ー その意味では、自然に囲まれた今の里山の暮らしで得られるメリットが大きいと。

洋平 街を出ようっていうのは、今の文明的なコンセプトでいいんじゃないかな。俺は少なくとも暮らしのベースっていう部分では街に戻れない。例えば薪ストーブで暖をとるのは大変な作業でもあるけど、電気やガスで供給される暖かさって根本的に何か足りない。俺個人としては、生活者としてのレベルアップをしていかないとと思っているけど。


三宅洋平
ベルギーで生まれ。2003年にレゲエ・ロックバンド「犬式 a.k.a. Doggystayle」のボーカル・ギターとしてデビュー。2009年から無期限で活動休止していた犬式を2017年に再始動させた。2013年と2016年の2回、参議院選挙に立候補。「選挙フェス」を展開し多くの共感を得た。現在は岡山に在住。https://miyakestore.com/

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三宅商店オンライン開通にあたって ツアーで日本中、時には世界を回ること、はや10年以上になります。 各地で出逢うのは、オルタナティブな職人仕事。 人類が今求めている「本当のゆたかさ」を追究する有形・無形さまざまな職人たち。 そこには、地球の本当の豊かさ、 そして人間の手仕事の偉大さに気づかせてくれる叡智が込められています。 せっかくなので旅の方々で巡り会う、こうした「センス」を持ち帰り、 僕が暮らす沖縄県北部の小さな町・本部町の市場に並べることにしました。 エコ商品やヘンプ衣類、店主オススメのCDやLP、本などなども。 消費のあり方が、人類の命運を左右する鍵であることは明らかです。 僕らの「センス」の力で、環境や経済の問題を解決できるのではないか? ・自然環境と共存する生産・制作スタイルを深めつづける ・なるべく簡易な包装で、梱包なども家庭の再利用品など取り入れる ・なおし直し使い続けたくなる「いっしょうもん」 意義あるマテリアルを世の中に提供し、 皆さんがそれを大切に使って生活を豊かにしてくれることを願っています。 このたび、NET商店のほうも、ゆるりと開店しました。 店主自ら、慣れないシッピングを試行錯誤しています。 当初、至らない点は多いと思いますが、 どんぶりは欠けていても中身は間違いないラーメン屋からのスタートと位置づけ、 少しづつ「わびさび」「洒落」「まごころ」を付加させていけたらと、 スタッフ一同ふんどしの紐を締め直している所存です。 積極的なリクエストを、よろしくお願いいたします。 2013年3月某日 初夏の陽光 沖縄・本部町にて 店主 三宅洋平 ------ 三宅商店 小森温泉前店 岡山の山間部の県道沿いの元コンビニをリノベーションし、 実店舗と、オンラインショップの事務所と発送所として運営しています。 営業時間 : 10:00 - 17:00 定休日 : 水曜・第3日曜 電話番号 : 0867-34-9030

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『動物宣言』
2017年、9年の停止期間を経て活動再開。以降、メンバー各々の他プロジェクトと並行して、ライブ活動を継続してきた犬式が、13年ぶりとなるアルバム『動物宣言』を今年4月に発表。ライブも精力的に行っている。犬式のメンバーは三宅洋平、三根星太郎、石黒祥司、柿沼和成の4人。Revolution(革命)からEvolution(進化)への旅がはじまっている。10月下旬に『動物宣言』アナログ盤がリリースされる。https://inushiki.jp/

LIVE SCHEDULE

11月12日(土) 貞光福市@徳島つるぎ町(ソロ)

11月13日(日) 波の上フェスティバルフェス@沖縄県那覇市(犬式)

11月18日(金) RubyRoom20周年@東京都渋谷(犬式)

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