デイナ・グリーソン(MYSTERY RANCH)

ボーズマンから届けられるタフなバックパック。

文=宙野さかな text = Sakana Sorano
写真=須古 恵 photo = Meg Suko

アメリカ北西部に位置するモンタナ州。ビックスカイカントリーと呼ばれるこの州のボーズマンで、バックパック・メーカーのミステリーランチは誕生した。ボーズマンは、アメリカを代表する国立公園のイエローストーンのゲイトシティとして、アウトドア好きにとっては憧れの町のひとつとして存在している。


 ミステリーランチのオーナーであり、デザイナーとしてブランドの礎を築いたのがデイナ・グリーソン。東部の大都市、ボストンで生まれ育ったデイナが、ボーズマンで暮らしはじめたのは1975年のことだったという。


「ボストンにはケープゴッドという美しい場所もあって、海の風景に慣れ親しんでいたんだけど、ずっと山に惹かれていたんだよ。暮らすのはここじゃないと思うようになって、西へ向かっていったんだ。そしてボーズマンに辿り着いた。ちょっと住んでみようかっていうくらいの軽い気持ちで住みはじめたんだよ。ボーズマンに来るまでは、いろんな場所を移動するのが好きで動き続けていたから、42年も同じ場所で暮らし続けるなんて思っていなかったけどね」


 ボーズマンに移り住む前には、シカゴでバッグのリペアの仕事をしていたという。その経験を生かし、70年代後半にクレッターワークス、80年代中盤にデイナデザインというバックパック・ブランドを立ちあげた。クオリティとデザイン性を兼ね備えたバッグとしてデイナデザインは人気を集めた。ビジネスとしても成功し、デイナ・グリーソンの名前は世界に伝わっていった。


「徐々に自分たちの持っていたこだわりと折り合いがつかなくなっていってね。そして48歳のときに、もう仕事で悩んだりあくせくしなくてもいいやと思って一線から退くことを決意してリタイア。世界中をスキートリップして巡っていたんだよ。だけどそんな生活も3カ月続けていたら、スキー自体が楽しくなくなってしまった。スキーで遊ぶことじゃなくて、何か違うことをしなければと思うようになってね。そんなときに20歳くらいだった娘が『シンプルなヒップサックが欲しい』と言ってきて。すごくテクニカルなものでもないし、機能が必要なわけでもない、すごくシンプルなヒップサック。それがなかなか大変で、3日か4日かけてつくり上げたんだよ。そしてつくったヒップサックを渡したら、娘は笑顔で『ありがとう』って感謝してくれた。その瞬間に大きなビジネスをやろうと思っていた自分が消えいったんだよ。自分はバッグをつくることしかできない。それが自分の人生だって、その瞬間に思ったんだ」


 そして2000年にミステリーランチが設立された。スタートした当初は、ミリタリーや森林消防隊など、特殊な環境下で自然と向き合わざるをえない人たちのためのバッグづくりをベースにしていた。


「どんな悪い環境下にあっても活動しなければならない人たちの声を聞いて、彼らのミッションに対する解決策を用意してあげること。バッグというひとつのギアで彼らのエネルギーをセーブし、パフォーマンスを上げられるようにすることが私たちの使命なんだと思っているんだ。ミステリーランチのバッグを使ったからといって仕事が楽になることはないけれど、少しでも彼らをサポートできれば。そういう環境下で使えるものなら、アウトドアでも、そしてファッションとして町で使っうことにも対応することができるはず」


 バッグというアイテムへの深い思い。デイナ・グリーソンの信念は今もミステリーランチのバッグに込められている。この4月、世界初となるミステリーランチのオンリーショップが原宿にオープンした。


関連情報

MYSTERY RANCH TOKYO

渋谷区神宮前6 -15-7

http://www.mysteryranch.jp/

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