【辻コースケ・インタビュー】自然の中で音楽を感じ、自分のビートを確認する旅が始動する。

GOMA & The Jungle Rhythm SectionやCaSSETTE CON-LOSのメンバーだけではなく、音楽のみならず数多くのアーティストのセッションを重ねているパーカッショニストの辻コースケ。ジャンベを使ったワークショップも90年代から続け、ライブアーティストとしてだけではなく、ワークショップで参加するフェスも少なくない。コロナ禍のいま、音楽を聞いて(ライブ)参加する(ワークショップ)からさらに一歩を吹き出し、自然のなかで体験することをコンテンツにした辻コースケ旅がスタートする。

–––– 辻さんとパーカッションの出会いを教えてください。

 1995年にケニアを旅行したときに首都のナイロビで、ケニア・ナショナルシアター(国立劇場)がミュージシャンやダンサーたちのたまり場になってるから行ったら習えるよ、という情報を聞いて行ってみたんです。

 ナショナルシアターの敷地に入って最初に出会ったケニア人に「タイコを習いたいんだけど…」と話し始めて、誰か先生を知ってますか?って聞こうとしたら、「オレがティーチャーだ」って。その彼が「ついて来い」って小学校の体育倉庫みたいなところからタイコを2つ持ち出してきて、

まさに校舎裏みたいな劇場裏のスペースで「ここでやろう」と言い出したんです。いきなりすぎて、ああだまされたと思ったけど、とりあえずタイコには触われるし、まっいっかって軽~い気持ちで彼に習うことにしました。

 向かい合わせに腰掛けた途端、彼がソロ演奏。僕の音楽人生であんなにびっくりしたことはないってくらい強烈なビートでした。音のデカさ、スピード、表情の豊かさと技術力の高さ…。タイコひとつで、素手でそこまでできる?っていう人間力にビビらされたのと、その音が飛んでいく先にはアフリカの青空が広がっていて、彼がニッコリ笑って「これが大昔から人と大地と空をつなげてきた音だよ」って。そのときにはじめてアフリカを感じて泣いてしまったんです。

 彼の名はジュリアス=チャロ=シュット。ケニアでナンバーワンのパーカッショニストでした。ナショナルシアターでその後、何人ものパーカッショニストと会いましたけど、どこをとってもジュリアスがダントツでした。彼の笑顔や人間性も素晴らしくて、ナイロビ滞在中は毎日会いに行きました。

 僕は当時プロのドラマーになりたくて、沼澤尚さんが先生をやっていたアメリカの学校に行こうかなとかも考えていたのですが、アフリカに行ってジュリアスと出会ったことでパーカッショニストの道へ進むことを決めたんです。

–––– ワークショップは、いつ頃から、どんなスタイルで行ってきているのですか。

 ワークショップは98年から。当時、恵比寿にあった民族雑貨屋さんが常連のお客さんたちと、売り物のジャンベやカリンバなんかを使ってのジャムセッションで、養護学校の夏祭りに出演することが決まっていたんです。ところが誰もジャンベの叩き方を知らない。とりあえず本番の日は決まっているがどうしたらいいかわからない。まずはジャンベの叩き方を教えてくれる人を探してるというので紹介されて、いきなり夏祭りに向けてのリーダーとして練習会に参加しました。無事に夏祭りでの初ステージを終えたあと、メンバーのみなさんがこのまま続けてほしいと言ってくださって、ワークショップがはじまりました。

 練習場所はその民族雑貨屋さんの地下室(物置部屋)か代々木公園の青空教室でした。当時の代々木公園は音響システムを持ち込んでトランスパーティをやるグループがあったり、アンプでギターを鳴らしてたり、そこら中で音楽をやってました。ジャンベの集団がいても、もっと爆音がいましたから、特に問題にはならなかったですね。

–––– 今回のEnda Safariを企画した意図を教えてください。

 ケニアでの体験に戻るのですが、レッスンはいつも外でした。難しいリズムパターンに行き詰まったとき、ジュリアスが「OKコースケ、タイコを置け。休憩しよう」って言うんです。僕は滞在中にいろんなことをマスターしたいし、いま止まったらパターンを忘れてしまうから休憩したくなかった。でも「いいからタイコを置け。タバコでも吸おうじゃないか」って。しぶしぶタバコ吸いながら見上げると、煙の向こうにはでっかい太陽と青い空がある。近くの雲と遠くの雲ともっと遠くの雲ともっともっと遠くの雲が立体的に広がっていて。花や樹の葉っぱの色の鮮やかさと大きさ。聞いたことのない鳥の鳴き声が聞こえてきたとき、見透かしたようにジュリアスが「This is Music」と言ったんです。「こうやって風を感じて、まわりを感じながら、ゆっくり身体に入れていかなければ音楽は何も身につかないんだ」って笑いかけられて、また泣きました。これが本物の音楽だなあって感じて。

 98年から、場所を変えながらマイペースに続けてきたワークショップが、昨年からできなくなってしまった。毎週通っていた練習スタジオに行かなくなった。「音楽がやりたい」「ワークショップを再開したい」って強く思いました。でもそれが、防音壁に密閉されたスタジオに入りたいってことでもないと気がつきました。そして、20年以上前のケニアの「青空教室」が鮮明に甦ってきました。空を見上げて、風を感じて、虫や鳥の声、草木や花、土の匂い…。その中で音を出す。「This is Music」を日本で体現するときがきたのだとひらめきました。そうして自分の中で浮かび上がってきたのがEnda Safari 「CIRCLE」の構想です。

–––– 今回、伊勢、屋久島、妙義、鴨川の四ヶ所で開催されます。その場所を選んだ理由は?

 Enda Safari CIRCLEは『Nature Good Mode』という自然の素晴らしい場所を探索、撮影して配信する活動を主催している中村“ノイズ”賢治さんとチームを組んで進めていて、その話し合いの中で、これまでLiveや撮影、プライベートで訪れたことのある好きな場所と行ってみたい場所を出していって、この企画に合いそうな場所を選びました。僕が選んだのが伊勢と千葉の鴨川。ノイズくんが選んだのが妙義。全員初めて行く場所が屋久島です。伊勢は緊急事態宣言の延長もあり、中止としました。

 このコロナ禍のいま、人は生きものとして、生活のスタイルそのものを見つめ直さなきゃいけないときが来たのだと思います。まず己はどうかと考えたときに、質の良い新鮮なものを食べること、身体を動かすこと、自然に触れること、よく寝ること、そして音楽。これらがあったら病気にならないなって思いました。これってまさしくケニアでやっていたことだと気がついたんですね。そんな話しをノイズくんとしていたら「それ、全部やるツアーやりましょう!」と言われてCIRCLEの構想が生まれたんです。

–––– 初日に予定されているトレッキングなどは、辻さんも参加するのですか。

 伊勢、屋久島、妙義、鴨川の食べ物やトレッキングなどの内容もすべてみんなで考えて、現地でも基本的に自分もスタッフもみんなで参加する予定です。

–––– Enda Safari CIRCLEでのフードのこだわりを教えてください。

 各地、どんな野菜や魚が獲れるかとか、何の料理が美味しかったとか、予算的にはどんな料理が可能かとか、盛り付けるお皿も箸も使い捨ての紙皿や紙コップは嫌だねとか…。コロナ対策もあるから1人前ずつ分けられるもののほうがいいとか…。現地の友人にもご協力いただいて、身体にも美味しいものを提供したいと考えています。

–––– 2日目のワークショップCIRCLEは6時間もの時間が設定されていますが、どんなスタイルになるのですか。

 Enda Safari CIRCLEでは、『共にする』がテーマのひとつとしてあります。自然の環境を共にする。トレッキングや散策、Liveや食事を共にする。そしてラストに翌日早朝からのワークショップ6時間を共にする。これまでのような先生が生徒に短時間で技術を教えるようなワークショップではなく、自然の空気を吸って、風や匂いを感じて、音を聴き、また音を出してみる。感じ方は人それぞれでいい。それぞれの出したい音を出したらいい。敷地内なら離れていてもいい。途中でコーヒー飲んでもらっても、朝食を食べてもらってもかまわない。自然の流れを感じて共に音を出してみる。表現してみる。そういうワークショップにしたいと思ったら6時間ということになりました。けっして地獄のスパルタ合宿ではありません(笑)。もちろん、いまはコロナ禍ですから、感染症拡大防止の対策を万全にして開催します。

–––– 辻さんにとっての「ビート/鼓動」とは?

 ビートって、心臓の鼓動のことです。ひとりひとりがビートを持っている。一定のリズムを刻んでる。だからリズム感のない人なんて存在しない。個性があるだけなんです。その個性を聞きたい。そしてビートは自然です。みんなひとりひとりが身体のど真ん中に自然を持っている。

 いま、心身ともに不自然が多すぎて人々の体内のビートが狂ってしまって、苦しくなっているんじゃないかなって。自分も含めてですけど、自然に触れることと、体内のビートを思い出すことが重要だって強く感じていて。演奏が上手も下手もない。リズムに自信がなくたって自然環境の中ではどんなビートも違和感なく溶け込める。とにかく自然に足を踏み入れて、みんなそれぞれのビートを共にしたいなと思っています。

 このCIRCLEを今後各地で開催できるように。その先には健康で、個性豊かなビートたちが分け隔てなく尊重し合って共演できる社会になりますように。そんな原動力のひとつになれるようにがんばります。

Kosuke Tsuji Solo Live & Circle Tour Enda Safari

【屋久島の旅】

2021/09/23(祝日・木) −9/26(日) 屋久島 青少年旅行村

※9/23 〜9/26のAコース (3泊4日)、9/24 〜9/26のBコース (2泊3日)

【妙義の旅】

2021/10/16(土) − 17(日) 妙義 いとのにわ

【安房鴨川の旅】

2021/10/23(土) −24(日) 千葉・鴨川 Café En

※2021/09/18(土) − 19(日) で予定されていた【伊勢の旅】は中止になりました。


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