京都にベースに活動を続けているふたつのインストゥルメンタル・バンド、NABOWAとjizue。初となるコラボレーションアルバム『Sketch』をリリースした。制作は各メンバーそれぞれの自宅やスタジオなどにとどまって作曲をする完全リモート形式で行われ、各々が一曲ずつをプロデュースする形で全7曲が完成したという。このアルバムの収益は、長年彼らの活動を支えている京都や大阪のライブハウスやクラブ(KYOTO MUSE、磔磔、CLUB METRO、livehouse nano、梅田 Shangri-La)に寄付される。音源は各種配信サイトにてストリーミング配信、およびダウンロード販売されいている。
–––– このコラボアルバムを作ろうと思った動機とは?
山田剛(jizue)
お世話になっているライブハウスやクラブが苦境に立たされるなか、自分達に出来ることを模索していた時に「NABOWA×jizue」として出演予定だったKYOTO MUSE30周年も中止になったのがこの共同制作のきっかけです。
当初は2バンドで1曲作る予定だったにも関わらず、リモートでやり取りを続ける内にアイデアも広がり、各々の音を活かす形で1人1曲の全7曲になりました。
構想から2週間足らずで完パケ出来たのはメンバーはもちろん、スタッフも、bud musicみんなが同じ思いで一丸になれたからだなと思います。
山本啓(NABOWA)
今、ライブハウスやクラブはもちろん飲食業や観光業にいたるまで「人を集めること」を生業とするすべての方々が窮地に立たされていることは言うまでもありません。そういった人たちは商売の特性上、このパンデミックのなかでは存在そのものを維持することすら困難であり、しかも自分でそこを脱することは絶望的に難しい状況です。そこで、助けを求める形でクラウドファンディングやドネーションなどいろんな手が講じられていますが、僕たちミュージシャンにとってクラブやライブハウスはこの騒動が明けた後に最も必要な存在なので、是非とも協力したいと強く思っている一方、その「人を集めること」を生業とする人々のなかに僕たちミュージシャンも入っているため、同じく大ピンチで、いつ明けるかわからないこの状況のなかで手持ちの現金を渡すのが難しく、協力するためには別の手を講じる必要がありました。
また、長期化することが予想されるこの事態に対し長期的にサポートする必要があるので、それには無理して一度だけ今あるお金を寄付するよりも、一度やった行動がその後は手を加えなくても継続的にお金を産んでくれるシステムを構築して寄付してもらうほうが、同じくピンチな我々アーティストにできる方法としては現実的かつ合理的だと考え、アルバムを作りその収益を寄付しようという結論に至りました。
リリースした週末はもともと京都を代表するライブハウスのひとつ、KYOTO MUSEの30周年イベントでNABOWA×JizueでのB to Bライブをやる予定でしたので、せっかくだからこの機会にメンバー合計7人で一緒に作ろうということになったわけです。全員、箱をサポートしたい気持ちが同じでしたので満場一致で制作がスタートし、立案から10日で完パケというこれまでに無いスピード感で作品ができました。
–––– このアルバムで何を届けたいと思っていますか。
山田剛(jizue)
今、困窮を極める方々はもちろん、誰もが今後に不安を抱かざるを得ない状況で、何度手元の資料を見直しても、自分達に出来ることは音楽しかなかったというか。
もちろん衣食住に比べたら音楽が不要不急であることは知っています。けど音楽がどれだけの人の支えになってくれるか、どれだけポジティブなものか、音楽の力もまたよく知っているつもりです。
今、僕達に出来ることは本当に些細なことかもしれないけど、このアルバムを家で聴いてくれた人達の温かい気持ちが、少しでも大切な人達の支えに繋がることを願っています。
山本啓(NABOWA)
今回のアルバムの肝は寄付の対象を限定したことだと思います。これに対して、どうか「全国にもお世話になった箱があるだろうに薄情な奴らだ」と思わないでほしい。限られた利益を全国に配るというのは、コップ一杯の水しか持っていない状態で、コップ一杯の水を今すぐ飲まないと助からない人100人を目の前にした時に、不平等だからといって全員に一滴ずつ配るのと同じ結果になるからです。
僕らは、まずは、すぐ隣の人へできるだけ多くの水を飲ませるという道を選びました。でも、同じような事を僕らだけじゃなく全国でいろんな人がやれば、最終的にはみんなが助かるんじゃないでしょうか。僕らは、関西のつながりの深い箱へ限定しましたが、是非全国各地でいろんな人がやってほしいと思っています。
もちろん今回の騒動は他の自然災害とは違い、一部の地域だけじゃなく世界中のすべての人に降りかかっている災難なので、支援する方もある意味平等にピンチだと思います。僕たちだってそうです。はっきり言って、この時期の収入源をほぼ絶たれた状態で、アルバム一枚分の楽曲を十日以内に7人でリリースできる状態にするというのはいろいろ大変なことでしたが、頑張れば何とかなるということを、これで証明できたと思います。
みんな、それぞれのやり方で、是非近くの誰かをできるだけ助けてあげてほしい。それが連鎖すれば結果的に全員を支援することに繋がるし、その支援はちゃんと自分のところにも必ず返って来るものだと思いますので…。
ある時期を境に「できることをやろう」とよく言われるようになりましたが、その「できること」には、「今できないことをできるように努力する」ということも含まれていることを忘れてはいけません。昨日と同じことを今日もやったら何の成長もない明日が来るだけです。変えたい日常がある時には「できる無茶を頑張ってみる」くらいに言い換えていろんなことにチャレンジし、困った近くの誰かを助けてみてください。この事態が収束した時またみんなで集まれる日が迎えられるように、その場所が消えないように…。
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