みんなが笑顔になれる場所。String Cheese Incident @ Red Rocks


2006年の〈フジロック〉を最後に来日していないストリング・チーズ・インシデント。2年間の活動休止はあったものの、今もアメリカではトップランクの人気を誇る「ジャムバンド」だ。彼らの地元であるコロラド州のレッドロックスでは、毎年3日間に及ぶショーが開催されている。コロラドだけではなく、アメリカ各地からこの日のためにオンザロードしてくるフレンドオブチーズたち。チーズのファンにとっては、まさにこの地が約束の場所であり、この時間が約束の時間なのだ。

文 = 林 智美 text = Tomomi Hayashi
写真 = 林 大輔 photo = Daisuke Hayashi


 コロラド州デンバー郊外に位置する赤い巨岩に囲まれたレッドロックス・アンフィシアターは、『ローリングストーン』誌で全米ナンバーワンのコンサート会場に選ばれたこともある自然の地形をそのまま利用した野外劇場である。コロラドで結成されたストリング・チーズ・インシデントにとってはホームのような場所であり、2007年の活動休止前の最後のショーも、2010年の再結成ショーもここレッドロッ最後のショーも、2010年の再結成ショーもここレッドロックスで行われた。

 私自身も7年ぶりのチーズのショーで、レッドロックスにまた戻ってこられた喜びと2歳になる息子も一緒ということで初日に車で向かう窓の外に赤い岩が見えたときは感慨深いものがあった。パーキングロットでは自作のポスターやTシャツ、冷えたビールや水がクーラーボックスに入って売られている。ジャムバンドのショーではよく見る光景だ。開場時間の何時間も前から続々と人が集まって、ロットでそれぞれの時間を過ごしている。我々も友人たちとキャンピングチェアに腰かけ、ビールやチップスを広げてピクニックさながらで開場を待った。

 野外劇場とはいえレッドロックスは岩壁に囲まれているため音響効果に秀でている。幼子を連れているので、席はPAより後方を選んだ。見渡すとイヤーマフを付けた小さい子どもをちらほら見かける。ショーの間は周囲の人たちも一緒に子どもをケアしてくれるし、寝てしまったら座席下に持参したマットを敷いて横たわらせればちょっとしたカプセルホテルのような空間ができ、蛍光スティックで囲めば踏まれる心配もない。夏のコロラドではよくあるのだが金曜もショーの途中で一時スコールのように雨が降り、そのときもこのシステムのおかげでわが子は濡れずに済んだ。

 肝心のショーはといえば、日を重ねるごとに音に深みが増し、最終日の日曜には名曲オンパレードのセットリストがストリング・チーズ・インシデントここにありと言わんばかりの盛り上がりを見せた。とくにセカンドセットは1曲目の「Rivertrance」で会場が一気にサイケデリックな空間と化し、新曲の「Get Tight」はチーズらしい心地よいラブソングで胸を熱くする。「Little Hands」は土地柄とマッチしてまるで神聖な儀式にいるような、魂が浄化されていくような感覚を体験する。そして「Rollover」、「Black Clouds」と続き、アンコールではチーズでは初演奏となるグレイトフル・デッドの「Brown Eyed Woman」が披露され会場を沸かせた。

 久しぶりにチーズのショーに来て感じたのは、ロットで過ごす時間も、ショー自体も、バンドだけでなくファン自らが進んでいい雰囲気を作り出しているということ。怒声を聞くこともバッドトリップな人に出会うことも一度もなく、自然にみんなが笑顔になり、会場全体がラブ&ピースに包まれる。それがチーズのショーに足を運ぶ醍醐味だということを思い出させてくれた。

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